突然、ラブレターをもらった。
ほかのクラスの人だった。正直あまり話したことがない人。見た目はちょっとかっこよかった。手紙の内容も、真剣なんだなって思えた。
返事をしなきゃならない。
私には好きな人がいるって。
でもきっと、私の恋は実らないと思う。好きな人は私の友達と仲がいいけど、私は何にも意識されていない。友達の友達ポジションからどう脱却すればいいか、私にはわからない。
だから私のことを好きって言ってくれる人と付き合っちゃうのはとても簡単に思う。その人を傷つけることもない。
でも、でも、上手くいかないかもしれないけど、私は私の恋を簡単に諦めたくもない……。
『上手くいかなくたっていい』
それなりにちやほやされて育てられたと思っている。
仲間や友人にも恵まれたほうだろう。
世の中がきな臭くても、この小さなパブでは、皆何でもない風を装っている。
結婚がうまくいかなかったとは思っていない。
夫は悪い人ではなくいつも優しかった。
恋心は持っていなかったが、夫を愛していた。
帰って来ないと知ったとき、枯れたと思っていた涙が流れた。彼のために泣けるまでの心がまだ残っていたのね。
今日も、パブに立つ。
お客さんたちはわたしを待っている。
いっときすべてを忘れて、店主を持て囃すことが、彼らの心の安寧に繋がる。夜のパブにしか来ない客もいる。
わたしはあの空間が好きだ。
『蝶よ花よ』
ずっと、この店を守っていくものだって、そう決まってるものだって思ってた。
今は、お店を守りたいって思って、そうしてる。
結局、私はこの店が好きだから、この店を守りたい。
でも今の店は、昔とは少し違っている。
たくさんの色とりどりの花にあふれ、光を反射してきらめいている。
濡れ羽色の美しい羽飾りも増えた。
それが昔からそうであったかのように、私の心に馴染んでいるのが嬉しい。
『最初から決まってた』
キリリとネジを巻くと、コツコツ、という妙に大きな音が時を刻み始めた。
長針と短針が重なると、どこにそんなものを積んでいるのか、古ぼけたオルガンのような音が、ボワボワと軽快な旋律を奏でる。
それにあわせて、からくりの小人たちがぎこちなく動き出す。
歯車とバネがカチカチカタンというのが、小人たちの動きに妙に合っている。
曲が終わると、ボーン、ボーンという鐘の音が、もったいぶったように、貫禄を見せつけるように、ゆっくりと時を告げる。
カチリ、と長針が六十分の一を動くまでの一分間に、大名行列を見たようだった。
『鐘の音』
最初は、じーさんに頼まれたからってだけの理由で、あいつの手助けをしてやったんだ。
ま、ちょっとした報酬に釣られたってのもあるけどさ。
けど、結局最後までは面倒みきれなくって、あとはあいつがうまくやることを祈るだけになっちまった。
正直、分の悪い賭けだと思ったね。
でもあいつはやり遂げた。
ちょっとは根性あるんじゃん。
それから、あからさまにつまんない仕事が押し付けられてきて、あいつ本人は不器用ながらもへこたれずになんとか頑張ってる。
オレは、オレ自身は最近ちょっとへこたれてたかもしれないなって。あいつを見て思ってさ。ちょっとだけだけど。
仕方ない、明日も仕事すっかーって、ほんの少しだけ、さっぱりして寝ることにするわ。
『つまらないことでも』