ももく

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 それなりにちやほやされて育てられたと思っている。
 仲間や友人にも恵まれたほうだろう。
 世の中がきな臭くても、この小さなパブでは、皆何でもない風を装っている。

 結婚がうまくいかなかったとは思っていない。
 夫は悪い人ではなくいつも優しかった。
 恋心は持っていなかったが、夫を愛していた。
 帰って来ないと知ったとき、枯れたと思っていた涙が流れた。彼のために泣けるまでの心がまだ残っていたのね。

 今日も、パブに立つ。
 お客さんたちはわたしを待っている。
 いっときすべてを忘れて、店主を持て囃すことが、彼らの心の安寧に繋がる。夜のパブにしか来ない客もいる。
 わたしはあの空間が好きだ。



『蝶よ花よ』

8/8/2024, 9:47:45 PM