夜間

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10/17/2025, 12:43:42 PM

砂時計の音



きっと、その音は心地よいもので。

気づいた頃には寝てしまっている。

けれど、その音は自分以外にも聴こえるものらしくて、今隣で余計な音を出されている。

「…………」

苦い顔をして隣のヤツを見ても、ソイツは右手の人差し指で砂時計の砂が落ちるのを感じて、リズムのようなものを取っている。

「うるさい」

「え、あ、俺か?」

「……お前だ」

左之助はどうやら無意識に行っていたからか、俺を見ながら目を丸くしていた。

砂時計の音にしろ何にしろ、人それぞれに楽しみ方というか、捉え方は存在すると思う。

何故今砂時計がひっくり返されているのか、誰がひっくり返したかなんて分からない。

「すまねぇな。……こんな音だけじゃ、俺には響かなくてよ」

だが、この夜更けの時間に砂時計の音があったとしたら、その場所に集まってしまう。

それは恐らく、無音だと寂しいからだろう。

つまりは俺も左之助も、こんな時間にまで起きて寂しさを誤魔化したいのだ。

「砂時計は、満足するためにある訳じゃないだろう」

「お前に言われても説得力ねえなあ……」

静かに砂時計を見つめる。

もうすぐで静かで心地の良い音が聴こえなくなってしまう。

そうしたら、何か壮大なことが起きそう、とありもしない妄想をしてしまう節がある。

それは、きっと寂しいからではなくて、砂時計がそういうものだからだろう。

「ねえ、二人とも」

砂時計の音が切れる瞬間、何者かに話し掛けられた。

俺と左之助は目を合わせたあと、話し掛けた主の方向を見る。そこには、沖田が居た。

「おー、総司、どうした?」

寂しさを隠すような口調で、左之助が沖田に話しかける。当の俺は、口を開くことが出来なかった。

「……二人は、一緒にいるのに何故寂しそうな顔をしているの?」

不意に、左之助と目が合う。どうもアイツの目には哀愁が漂っていて、美しい瞳をしていた。

なんだか照れくさいというのか、それとも寂しいということを認めたくないのか、勝手に口が開いていた。

「砂時計の音が、最後の最後で聴こえなくなったからだ。……沖田に話しかけられたから」

「あ、いや、総司?違う、違うからな!」

「いや、申し訳なかった。斎藤さんはその音を聴きたかったのだな」

純粋だから、信じてしまうのだろう。

砂時計の音に、そんな重要な意味なんてないのに。

10/16/2025, 11:26:41 AM

消えた星図



空を見上げたところで、地面を這いつくばったところで、もうあの星は戻ってこない。

無意識にアイツの家に行ってしまって、ソファに寝そべる。そこで初めて、誰もいないことに気づいた。

静寂でしかないこの家の風景が、どうも慣れなくて仕方ない。

星図に一つ星が消えたところで、ニュースにもなりはしないように、アイツがもうこの地球に戻ってこないところで、世界は何も変わらない。

「……俺、何してんだろ」

涙が流れるわけでも、喪失感に浸っている訳でもないのに、この家に来たり、アイツのことを考えたりしてしまうのは何故だろうか。

アイツが最後に言った言葉が、どうしても胸に引っかかるからだろうか。

『お前より、俺の方が強い』

この言葉は、アイツ也の気遣いだ。それはアイツと関わってきた上で、痛い程理解出来る。

「あ、絆斗、また来てた」

「ショウマ……」

こんな姿は、ショウマだろうが誰だろうが、見られたくはない。だからといって、こんな所で独り考え事をしていても何にもならないことは確かだ。

「俺にとってラキアは……なんだったんだろうな」

自問自答のような自分の発言に、疑問が浮かび上がる。

「うーん、……絆斗にとってラキアは、分かち合える仲間だったんじゃない?」

「俺が?」

「うん。だって二人なんか似てたじゃん」

似ていた?

俺と、ラキアが。

前にラキアが言っていた気がする。ショウマが言っていたように、似ていると。

「二人とも、見えない星を探し続けてるみたいだったよ」

「……じゃあ俺は、星を二つ見失っちまったようだ」

ソファに身体を任せるように座り込んで、ショウマを見つめた。ショウマは、こんなどうしようもない俺を、明るい笑顔で見つめていてくれた。

交流を深めた人物が居なくなってしまった時の悲しみは、もう何度も経験している。しかし、だからといって慣れている訳ではない。

もう、慣れる時なんて来ないのだろう。

「ショウマは、居なくなったりしないよな」

「大丈夫。オレは太陽だから!」

「は、はははっ……お前それ、自分で言うか?」

星は一つ消えても気づきにくいが、太陽は一つでも消えれば気づくだろう。

10/15/2025, 1:44:29 PM

愛-恋=?



どうやら恋愛感情を抱くための感情は、生きてきた環境に左右されるようで。俺はその狂ってしまった、異常な感情を抱くものなのだろう。

恋と愛というものはどうも、同じ式に当てはまらないと思ってしまう。それは俺が、恋をするのと同時に承認欲求を求めてしまうからだろうか。

恋に落ちてしまった相手は、勿論顔が好きであったり、性格に惹かれたのは確かだ。しかし、それと同時にどうしても『認めて欲しい』、『隣にいて欲しい』と思ってしまう。

寂しいだけなのかもしれない。

けれど、それが俺の正しい恋だ。

「おい、斎藤。話聞いてたか?」

「……すまん」

「はぁ……全く」

肩を大袈裟に動かす左之助は、口から大きな溜息を吐いた。

恋愛について考えていても、この環境にいる限りは恋愛、いや、恋愛感情を抱くことすら出来ないだろう。人を斬るだけ、男しかいないこの環境で、恋愛などしている暇はない。

俺のどう頑張っても輝けない瞳とは違って、左之助の瞳には常に輝きが存在していた。

俺がコイツだったなら、コイツの環境で幼少期を過ごしていたなら、もう少し平和に、まるで人生を設計されたように、生きられただろうか。

「……左之助」

「ん?なんだよ」

「お前は、……恋をした事があるか?」

「は、はあ?なんだよ、急に」

「……愛から恋を引いた時に、出てくるのはなんだと思う?」

「あははっ、斎藤はしょうもないことを考えるんだな」

そう言う左之助だったが、黙り込んで自分の世界に入ってしまったようだ。

恋などしたことはない。恋をしてしまうと相手を傷つけそうだから。愛を抱いたことはない。同じ量の愛を返してくれる人が身近にいなかったから。

だったら、俺は一体左之助に何を訊いたのだろう?

ゼロにゼロを引いたところで、数字は変わらないはずだろう。

心の奥底では、きっと左之助に何かしらの希望を抱いてしまっている。

俺の考えに共感して欲しいのか、否定して欲しいかなんて、自分自身でも分からなかった。

「……俺は、引いたら友情が残ると思う」

「…………何故?」

「だって、もし、もし俺が斎藤を好きになって告白したとして付き合えて。その後に別れたとする。……お前なら友達にまた、戻れるかなって」

左之助は後ろを向いてしまった。

きっと左之助は恋をしたことがある。それは、俺がありもしない幻想の誰かと想像しているのと違って、俺という存在で考えているからだ。

「お前は、斎藤はどう思うんだよ」

「俺か?……俺は」

愛から恋を引くということは、つまりは純粋な愛だけが残るということだ。俺は、その純粋な愛を受け取ったことがない。

だが、さっき左之助が考えたように考えれば、何かが浮かんでくるかもしれない。

「………哀しみ、不快感」

横目で左之助を見ると、一度は目を見開いたようだったが、すぐに微笑んでくれた。いつものようなあの勢いは、何処へ行ったのだろうか。

「まあ、斎藤らしいな」

「俺らしい……か」

きっと俺が求めている式には、答えなど、存在しないのだろう。

だったら、俺は受け入れてくれる相手が目の前にいるだけで満足だ。

恋など、する時が来るのだろうか。

愛を、応えてくれる人が、現れるだろうか。

蒼穹は、どうやら俺を優しく包んでくれるらしい。

10/14/2025, 1:59:01 PM





「ラキア、フルーツって知ってるか?」

「……なんだそれ」

そう言うと、絆斗は大きく口を開いて笑った。

どうやらフルーツというものは、甘くてみずみずしいらしい。ショウマが食べているお菓子とは違い、加工されていないのだとか。

「それでよ、梨を沢山貰ったんだが、食べるか?」

「ショウマたちと食べればいいのに」

「いや?俺はお前と食べたいんだ」

俺は首を傾げた。絆斗は、俺に対して好印象を抱いていないはずだ。なのに、俺と一緒に食べたいだの、まるで友達みたいじゃないか。

「……なんで、俺なんかと」

そう言うと、絆斗は照れ隠しをしながら笑った。

「いや〜……俺、ショウマと幸果に怒られてよ。『ラキアとも仲良くしろ』ってさ」

「……そうか」

絆斗は大きな鞄から梨というものを取り出した。お菓子とは違い、俗に言う食べ物だった。

「このまま食べるのか?」

「違う違う。こうやってだな、……あれ?」

右手に包丁を持った絆斗は、梨に少しだけ切れ込みを入れてなにかしたいようだった。

「どうしたんだ?」

「……か、皮が、上手く剥けねえ……」

様々な角度で切れ込みを入れる絆斗を見て、コイツは不器用だということに気づいた。

「……行くか。はぴぱれ」

諦めたような顔で、俺を見つめてくる。絆斗は不器用ながらに俺と仲良くなりたかったのかもしれない。

「はははっ、……行こう。絆斗じゃそれは無理だ」

「おい!失礼だな!」

俺たちははぴぱれへと向かった。