別れ際に
「〜〜〜!!」
怒鳴られた。
完全な濡れ衣だった。
私は状況もよくわからぬまま、怒鳴られていた。
急に世界が色褪せた。
生きていてもいいことなんてないような気がした。
なんだかどうでも良くなって、
部屋から飛び出した。
「おい、待て!!」
私は声を無視して走り、窓から飛び降りた。
ここは四階。
下はコンクリート。
頭から落ちれば助からないだろう。
身体が宙に投げ出された。
人が、窓から何か言ってる。
夕暮れ時のことだった。
全ての動きがスローモーション。
思い出が蘇る。
これが、走馬灯。
もう、地面が近い。
幸福感に満ちていた。
…………でも。
世界との、私との、別れ際に考えたことは
「まだ、死にたくない。」だった。
夕日は、綺麗だった。
思わず体を起こした。
……あれ?
ちゃんと、生きていた。
よかった。ほっとした。
全ては夢だった。
あの建物は知らないし、
怒鳴った人も知らない。
死にたいわけでもないし、
そもそもそんな勇気がない。
私はまだバクバクしている心臓の鼓動を感じながら、
着替え始めた。
通り雨
トラック一台がどうにか通れそうな道を歩いていた。
後ろから乗り物……トラックのような音がした。
かなり大きな音だったので、大型のトラックかなと
道が少し広くなっている場所の端によけ、
後ろを振り向いた。
トラックの姿……どころか人一人さえ見当たらなかった。
私が見たのは、こちらに迫る白いカーテンだった。
それの正体を理解する前に、
私はずぶ濡れになった。
息が苦しくなった。
というか、できない。
何が起きたのかわからなかった。
一人、息ができずもがきながらだんだん状況を理解した。
トラックの音ではなく、雨の音。
白いカーテンは、とても強い雨。
迫るように見えたのは、
ちょうど降る降らないの境界だったから。
濡れているのは雨だから。
息ができす、苦しいのは……マスクが濡れたから。
私はマスクを外した。
息ができた。
でも、雨が入ってきて苦しい。
雨は、私を頭の上から足の先まで
ずぶ濡れにした挙げ句、
何もなかったかのようにピタリと止んだ。
去ってゆく白いカーテンが見えた。
トラックも去った。
通り雨だった。
しばらくの間、トラックの音を聞くたびに
傘を握りつつ振り向くようになってしまった。
秋🍁
朝、目が覚める。
起き上がって最初に考えたことは、
寒い、だった。
もう、秋だなと
朝食の柿を食べながら考えた。
外に出てみた。
日差しは夏ほど強くなく、
風は秋の香り。涼しい。
夏ほど蒸し暑くもない。
上を見れば飛び回る赤とんぼ。
空の色は、秋。
雲は細かく、入道雲は見当たらなかった。
少し歩く。
視界にピンク色が映った。
秋桜だ。
一面、秋桜畑だった。
何度も何度も見た風景。
秋の景色。
また歩いた。
道に何か丸いものが落ちていた。
よく見ると、立派な栗だった。
トゲトゲだ。
一つ、道を横に入る。
まっすぐ進むと、
紅葉の木があった。
流石にまだ緑色。
けれども完全な緑ではなく、
場所によってはほんの少し赤色だった。
「秋だなあ。」
地面に落ちていた赤色に近い色をした紅葉を拾い、
メモ帳に挟んでポケットにしまう。
また、秋の風が吹いた。
窓から見える景色
窓が見える。
窓から、窓が見える。
屋根も見える。
鳥さんかわいい。
あとは、空が少しだけ見える。
そういえば、小さい頃
カーテンの隙間から見ていた雲が
自分は少しも動いていないのに、
カーテンに隠れていくのを見て
「これは大発見だ!」
と、嬉しくなったっけ。
確かその後すぐに
そんなこと普通に大人は知ってると知って
せっかくの大発見が……と、
茜色の雲を見て落ち込んだ。
今も昔も変わらず、
昼にカーテンの隙間から雲を見ると
雲はたしかに動いている。
……世紀の大発見だと思っていたんだけどなあ。
ちゃんと学校で習いました。
天気予報でも雲は動くし、雨雲レーダーもある。
というか雲が動かなければ天気が変わらなくて困る……!
そんな事を考えながら、小さい頃の思い出に浸る。
小さい頃の私へ
発見してはしゃぐのはいいけれど、
あまり自慢げに話さないほうがいいよ。
そうなんだ、すごいね〜!
なんて、話を合わせてくれる事はないから。
冷静に現実を見せられ恥をかくからね。
全てと言っていいほど、
誰もが知ってることだらけだから。
少なくとも、五歳の私に大発見は無理だ。
だから、次の日に
プラスチックにも書けるペン(油性ペン)を
発見して報告する前にやめなさい。
今でもたまに失敗する私より
形の無いもの
この世界には形の無いものだらけだ。
時間も、想いも、愛情も、自由も、
何もかも形がない。
しかも、何をもって形とするかによって変わる。
例えば時間。
時計があるから形とするか。
例えば想い。
文字として綴れば形となる。
逆に、形のあるもの。
……目に見えて、触れる事もできるものも
本当は形の無いものかもしれない。
この今生きてる世界が、
どこかの誰か……それこそ神様かもしれない……の、
長い長い夢の中ならば?
それとも、ここは本当はどこかの世界の死後の世界で、
ここから見ると、その世界が死後の世界であったならば?
もう、わからなくなってくる。
ここは、夢か現実か。
何が形のあるもので、何が形の無いものか。
この文章も果たして形はあるのか無いのか……。