キャンドル
「火、点いてる?」
「点いてる!」
「じゃあ灯り消すよ」
「うん!」
電灯が消えた暗闇に、キャンドルに照らされた顔がほのかなオレンジ色に浮かび上がった。
バースデイケーキに飾られたキャンドルの火が揺れる。
この火は自分のためのもの。
きゅっと手を握りしめる。晴れがましくて、でも気恥ずかしくて、綻ぶ口元にも力を込めた。
吹き消そうと顔をキャンドルに近づけると、眼の前で揺れる火が眩くて見蕩れた。ろうが燃える甘いような匂いが強くなって、近づけた顔が照り返しで熱い。
「あんまり長く点けてると、ろうが溶けてケーキについちゃうよ!」
「今、消すからっ」
もう私は大きくなったんだから、一吹きで消さないといけない。急いで大きく息を吸い込んで、胸いっぱいに貯めて、ふーっと強く吹く。
消えない時はこっそり息を継いで一回で消したふりをした。
たくさんの想い出の一つ。小さな火の記憶。
#93
たくさんの想い出
いいことや悪いこと、嬉しいことや悲しいこと。
たくさんの想い出が色を変え、濃淡を変えて、
点描画のように私の中を染めていく。
意外な色が不思議な効果を持つこともあって、
たった一枚きりのどこにもない絵。
これからどんな色が加わるのか、どんな絵に仕上がっていくのかわからないし、
誰に見せるものでもないけれど、
最後に素敵だったと思えるものになればいい。
#92
冬になったら
冬になったら、寒くなったら、
お呼びでなかったわがままボディが、
わりかし役に立つみたい。
冷たい風が吹く中を、寄り集まった私たち。
落語のマクラを思い出す。
――だって寒いんだもん。
#91
はなればなれ
「それじゃね」
「うん」
「ちょいちょい帰るし、そっちも会いに来てよ」
「うん」
彼の転勤が決まってしまった。もうすぐ電車が来る。
これまでのように頻繁には会えなくなる。正直、泣きたいくらいに寂しい。
でも今仕事を辞めるという選択肢は二人ともない。
「ついて行かないの?」
無邪気なのか無神経なのか、その質問には首を横に振り続けた。
素直について行くという性格をしてたら良かったのかな。でも私は自分の足で立てるようになりたい。
彼を乗せた電車を見送って、はなればなれだねと呟く。
それを繋ぐのは強い想いと運なんだろう。私たちにそれはあるんだろうか。
――そして、何年か過ぎて、
今は二人一緒に笑っています。
#90
子猫
小さくて、ふわふわしてて、
きらきらした瞳から目が離せない。
問答無用で私たちの心を鷲掴みにしてくるんだ。
この可愛い奴らは!
見かけたら近寄って手を伸ばさずにはいられない。
神様はどうして子猫とか子犬とか、こんな可愛い生き物を作っちゃったんだろう。
#89