永遠に
夜空に光る星々さえ、限られた命なのだから、
本当の意味での永遠は多分存在しない。
ただ、心底愛しいものや美しいものに
永遠を願う時、
その瞬間は真実で、
そこにこそ永遠は在るのだと思っていたい。
――あなたの幸いだけを祈っています。
#75
理想郷
ここはどこだろう?
暗い中を私は一人で歩いていた。あたりは静かで何も見えなくて、ただ足元だけがぼんやり見えている。不安が胸に押し寄せてくる。誰かいないの? 早くどこかへ。
その時、先に小さく光が見えた。良かった! 私は救われた気分でその光を目指して進む。光が段々と近くなり、目の前に浮かび上がるように若い男が現れた。黒っぽいスーツを着て、すらりと背が高い。彼はにこやかに笑いかけてきた。
「こんばんは。この先へ進むには道を選んでください」
そう言って、彼は自分の後ろを手のひらで示した。
そこには二つに分かれた道が見える。彼は左側の道を指し示した。
「こちらはあなたが理想とする場所へ向かう道」
「理想?」
「そう理想郷、ユートピア、シャングリラなどとも言いますね。そこでは何の悩みも苦しみもなくあなたが理想とする人生を生きられる。誰もが幸せに生きている。素敵な所ですよ。
そしてこちらは、今まであなたが生きてきた場所へ続く道」
彼は右側の道を指差した。
「さあ、どうします?」
理想郷。何の悩みも苦しみもない? だったらこっちに決まっている。私は左側に一歩踏み出した。
その時、彼が言った。
「ああ、一つだけ。左側の道へ行けば、あなたが今大事にしているものや記憶が残っているとは限りません」
意味がわからなかったが、嫌な感じがして私は立ち止まる。
「それってどういうこと?」
「例えば家族とか、友達とか、楽しかった記憶とか、そういうものが消えている可能性があると言うことです」
「それは……」
「でも幸せですよ。そこでのあなたは。別に迷うことはないと思うんですがね」
彼はさらに笑みを深めながら先を促した。
「さあ、お進みください」
動けない。柔らかな彼の声が恐かった。
今までの人生が消えるかもしれない? それでも選ぶの? どっちを選べばいいの?
私は右側の道を見た。そして左側をまた見る。
どちらへ?
あなたならどうしますか?
#74
懐かしく思うこと
まだ昔のことを心穏やかには振り返れない。
毎日忙しくて頭はいっぱいだし、ただ懐かしく思うには、私には時間が足りないみたいだ。
たまに思い返そうとしても、楽しかったことさえ切なくて胸が痛んで、幼かった自分が気恥ずかしくて目を閉じてしまいたくなる。
だからまだいいかな。
いつかゴールに近づいたなら、その時は優しい気持ちで思い出したい。
#73
もう一つの物語
昔、高校の先生が、私はあの飛行機に乗るはずだったんだよ、と言った。先生の穏やかな口調に対して一瞬息を止めてしまった事を、私はよく覚えている。
あの高校に合格しなかったら、あの会社に入らなかったら、あの人に出会えなかったら。
いくつかの大きなif。そして日々の小さなifでは、あの電車に乗らなかったら、等々。
そこには必ずもう一つの可能性があって、その一つの選択で人生が変わっていたかもしれない。普段は意識しないその紙一重の重み、生きている幸運を、痛ましい事故のニュースなど聞くと先生の言葉を思い出し考えさせられる。
あの日、あの場所に私がいたら、もしくはいなかったら?
今ごろどんな物語が始まっていたのだろう。
#72
暗がりの中で
最も暗い闇のなかにいるときこそ、光を見い出すことに集中しなければならない。
アリストテレス
すごくしんどかった時に、一日中聴いていたある歌手について、「この人の歌は暗いんじゃなくて、闇の中から光を求めてるように思う」というファンのコメントを見つけ、それがとても私の気持ちにぴたりと合っていました。ずっと心にかかっていたところ、この言葉に出会いました。
あきらめてないからこそ苦しい、それでいいから。と言ってもらった気がしました。
#71