紅茶の香り
一区切りついたら、
今日はアールグレイを淹れよう。
丁寧にはできないから、
カップにティーパックを放り込み、
熱いお湯を注げば、
ふわりと華やかな香りが広がっていく。
大きく深呼吸して、胸いっぱいになるくらい、
その香りを吸い込んだ。
子どもの頃はこの強い香りが苦手だったけど、
今はこれでないと物足りなくなってしまった。
少し甘いものを摘んだりもする、
午後の密かな楽しみ。
そして一息ついたら、もう一仕事。
もうひと頑張り。
#70
愛言葉
「ただいま、帰ったよ。ドアを開けて」
「合い言葉は!?」
「合い言葉って何? 早く開けてよ〜」
「この前決めた合い言葉を言って!」
この前決めた……? 思い出せない。仕方なく、自分で鍵を開けようとすると、ドアチェーンがかかっている。娘の様子だと正解を言うまで開けてくれそうにない。
困ったな、買い物を抱えて自宅のドアの前で立往生してしまう。合い言葉、何だったっけ?
こないだテレビで、固定電話にかかってきた電話からトラブルに巻き込まれるニュースを娘と見て、合い言葉を決めようとなった。それは覚えてるけど、いっぱい候補が上がって、結局……、そうだ思い出した!
「合い言葉言うよー、カピバラ!」
「当たりー!」
カチャリとドアチェーンを外す音がする。ドアを開けると満面の笑顔。
「お母さん、覚えてたね!」
あれから何年か経つのに、いまだに家に電話をかけるたびに、合い言葉を言わされる私です。
#69
友達
元気かな、会いたいな。大好きだった友達。
大人になったら、あの頃のような友達ができなくなってしまった。
暮らし方が変わり、いつの間にか疎遠になってしまったけれど、あの頃の記憶は大事な思い出になっている。
でも、思い出のままにするんじゃなくて、
もう一度、連絡してみようか。
行かないで
「行かないで」
きっといつもそう言いたかったよね。
朝も早くて、お迎えも一番遅かった。
保育園の事務室で、大抵一人でおもちゃで遊びながら、待ってくれてたっけ。
あの頃、何も言わなかったね。
この子は大丈夫だと思ってた。
朝行く前には、必ずぎゅっと抱きしめていたけど、それくらいしか寄り添うようなことはできてなかった。
最近になって、先生にむちゃくちゃ怒られて怖かったとか、最後になるのが嫌だったとか教えてくれるようになり、小さなあなたがどれだけ耐えて頑張ってくれていたのか知って胸が痛くなる。
あの時、それを言わせなかった自分の余裕のなさが情けない。
でも、のんびりと元気に育ってくれた。あなたが頑張ってくれたから、今まで仕事を続けることができました。ありがとう。
#67
どこまでも続く青い空
どこまでも続く青い空、その下には黄金色に輝く小麦畑が広がっている。
小麦の産地であるウクライナの国旗は、その風景を表すもの。それを知った時、なんて素敵な旗だろうと感動した。
今また世界には悲しいニュースが流れている。
見上げる青い空は果てなく続いて、境などないのに。
日々を過ごすことで手一杯になって、ニュースを聞くことさえ辛くなる私。もどかしい。
#66