百加

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9/3/2023, 9:21:51 AM

心の灯火


祈りにも似た小さな火。
それを頼りに暗く遠い道を歩く。
誰かの手助けはあっても、代わってもらうことはできない道を。

歩き疲れて動けなくなった時も、その火は消えていなかった。
見えなくても、灰の中の埋み火のように確かにそこにあった。

大丈夫、焦らなくていい。
灰を払う風を静かに待てばいい。
また必ず火は灯るから。
その心の灯火とともに、
きっと最後まで歩き続けることができるから。

9/1/2023, 3:26:20 PM

開けないLINE


明日の夜、どうかな?
この前言ってた店、予約取れたんだけど。

あの人からだ。LINEの通知に心臓が跳ねる。
落ち着いて。でもどうしよう。
通知で読んだから、既読になってない。
既読になったら、スルーなんてできない。


……迷ってるなんて、嘘。だって気になってる。

ぐらぐらしてるわたし。
甘くて、苦い予感。

8/31/2023, 10:31:04 AM

不完全な僕


まず最初に言っておきたい。
完全な人間なんかいない。絶対にだ。

当然、僕もそうだ。
何をしようと、どんなに頑張ろうと、不完全な僕のままだろう。
だから努力しない、と言ってるわけじゃないから、そこは安心してね。

だけど、君がそばにいてくれるなら、
いびつで刺々しい僕も、角が取れて丸くなっていける気がする。
完全な球体へ、少しは近づける気がするんだ。
それは希望なんだ。

8/30/2023, 11:15:44 PM

香水


 10:54
 スマホの待受画面を確認すると、十一時半の待ち合わせまで少し時間があった。
(早く着きすぎちゃった。三十分もあるな……)
 これから女友達とランチに行くつもりだから、今は何も口に入れたくない。
 コーヒーショップは却下して、時間を潰そうと駅に直結しているデパートに向かった。普段行くのは郊外のショッピングモールとかだから、デパートに行くのは久しぶりだった。

 週末の昼前のデパートは人が多かった。
 いつものショッピングモールとは客層が違っている気がする。華やかな店内を弾むような気分で歩き、案内図を見てから、二階の化粧品フロアに向かう。気になっていたブランドを覗いてみると、香水のテスターがいくつか並んでいるのが見えた。
(新しい香水、欲しいな。でもあんまり甘い香りは苦手だし)
 そう思って眺めていると、店員さんがにこやかに笑いかけてくる。
「良かったらお試しください。こちらユニセックスでお使いいただけます」
「あ、どうも……」
 美人だ。上品な言葉遣いと物腰に何となく気圧されてしまう。店員さんに愛想笑いを返しながら、一つ手近なものから試してみた。ムエットに吹き付けると、ほろ苦さのあるさっぱりとした香りが広がる。
(いい香り、でもこれは違うな)
 甘すぎるのは苦手だけど、全く甘さがないのも物足りない。
 一つ目のテスターをそっと戻して、二つ目はうっかり手首に一吹きしてしまった。
(あ、これって……!)
 思い出してしまった。思い出したくなかった。少しだけつき合った人がつけていた香りだ。香水の名前さえ知る前に別れてしまったのに。
 紹介で知り合った人だった。高望みなんかしていないし、できれば好きになりたかった。でもどうしても好きになれなくて、散々悩んだ挙げ句にひと月前にこっちからお別れした。
 後悔はしていないつもりだ。それでも一人は寂しい。
(もう、最低!)
 引きつった顔をしていたのかもしれない。店員さんが怪訝そうにこちらを見ている気がする。慌てて頭だけ下げて、早足でその店から離れた。追いかけるように手首から香りがする。纏わり付く香りが、本当にあの決断で良かった?と問いかけてくるようで苛々する。ムエットで試せば良かった。
(私が何したって言うのよ……!)
 世界が自分に意地悪をしてくるみたいだ。泣きたいような気分で唇を噛む。私は早く手首を洗いたくて化粧室を探した。

8/29/2023, 11:12:13 PM

言葉はいらない……ただ


 悲鳴のような歓声の中、まるでスラムダンクみたいだと俺は思った。
 1点差。
 第4クオーター、ラスト5秒。
 時間はない。
 奥に切り込めない。
 ここからシュートを打つしかないのか。

 その瞬間、目の端にあいつが走り込んでくるのが見えた。そこからはスローモーションのような記憶だ。言葉はいらない……ただ体が動いた。
 受け取れ。バックビハインドパス。
 わずかにディフェンスの動きが遅れて、あいつにボールが渡った。
 今だ!
 あいつはディフェンスの腕を強引にすり抜けて、体勢を崩しながらゴールに手を差し伸べるようにシュートした。
「行けえっ!!」
 空中に浮かんだボールは、きれいな放物線を描いて、ゴールリングに吸い込まれていった。
 同時に試合終了のブザーが鳴る。
 わずかな静寂の後、轟くような大歓声が湧き上がった。
 スコアボードは69−70。
 逆転だ。勝った。
 俺はコートに倒れ込んだ。もう一歩も動けない。でも最高の気分だった。
 口を開いて荒い呼吸をくり返し、今も病院にいるあの娘(こ)を思う。
 なあ、俺勝ったぞ。だからお前も頑張れ。手術は必ずうまくいく。




男子バスケット、頑張って欲しいです!

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