フレア姫

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11/4/2023, 8:39:02 AM

お題 鏡の中の自分

寸分違わず自分を映し出す鏡。ところが最近、この鏡というモノが映し出すのは、自分ではないという事が分かったのだ。鏡は多次元を分かつ境界なのだ。映っているのは別次元の自分だと分かったのだ。分かたれた世界の自分は、こう自分に語りかけてきた。

「やぁ、そっちの自分。元気かい?」

突然声をかけられたが、不思議な気がしなかった。

「まぁまぁだ。そういうそっちの自分はどうなんだい?」
「まぁ、同じようなもんだな。鏡の外の世界はお互い知らないからな」

どうやら鏡に映らないところでの様子は、話せない決まりらしい。だからまぁまぁとしか言えない。時々まぁまぁ元気だという確認を鏡の前で交わし合う。
おそらくお互い、鏡の前に立てなくなるその日まで……

11/3/2023, 12:49:17 AM

お題 眠りにつく前に

私は眠りにつく前に、いつもおまじないをする。夢にあの人が出てきてほしいからだ。そうあの人。もう二度と会えないあの人。年数が経っても、あの時と同じ姿のままだ。あの人に会いたい。夢の中で会いたい。でもホントは夢じゃなく……

想い浮かべて涙が溢れる。胸が痛い。いつになったらホントに会いに行けるのか?

「決して僕を追って来ないでね。キミは僕の分も仕合せでいてほしい」

そんな書き置きのせいで、私はこの世に縛られている。あの人のいない仕合せなんて無いのに。

ある日のことだった。あの人の妹だという人が、私を訪ねて来た。

「突然訪れたのは、これを見つけたからなんです」

それは写真だった。写真なんて亡くなった後で、たくさん頂いたはず。

「ただの写真じゃないんです。なにか話しかけると表情で応えるんです。なにか話しかけてみて下さい」

そんな写真あるはず無いと思いながらも、話しかけてみる事にした。

「どうして逝ってしまったの。私、寂しいよ」

困った表情だ。

「あなたに会いに行きたい!!駄目なの?」

真剣な表情で私を見つめているようだ。私は涙を浮かべながらこう言った。

「今でも私を愛してる?」

満面の笑みを浮かべて応えてきた。
妹と言う人は、

「この写真、あなたに持っていてほしいの。ずっと寂しい表情のまま、あなたの側にいたがっている様子なの。だから大切にしてください」

と言った。

その日の晩からは、今日1日のあった事を、写真のあの人に話しかけるのが日課となった。

いつまでも笑顔で微笑みかけてくれるあの人を見てから眠りにつく為だ。

11/2/2023, 9:12:18 AM

お題 永遠に

永遠に残っていてほしいものを探し続けて旅をしてきた。だが永遠なんてモノはこの世に無いようだ。生まれたものは消滅する。人の命、動植物の命、モノだって時が経てば風化していく。この世に永遠のモノなんて無いんだ。

溜息をついた。何が永遠だ。そんなのまやかしだ。存在しないモノを探し続けた僕の半生は何だったのか?

「愛は永遠よ」

そう言って旅立ってしまった僕の妻の命だって永遠じゃなかった。そんな僕ももうすぐ逝く。永遠の命など無い無に還るんだ。あるとすれば僕という存在は無くなるんだ。

永遠に……

11/1/2023, 9:00:54 AM

お題 理想郷

喫茶「理想郷」だなんて大仰な名前の喫茶店を見かけた俺は、不意になにかに呼ばれたような気がして入ってみた。
新装開店なのか、真っ白な胡蝶蘭が誇らしげに飾られていた。

「いらっしゃいませ」

奥から女性の店員の声がする。なんだか聞き覚えのあるような声……

「あ!誠二君じゃない?」
「えっ?佳代先輩ですか!」

俺は驚いた。大学で同じ学部の先輩だった佳代さんが、ここで働いているなんて。

「卒業してA社に就職されてたはずじゃ」
「あれからすぐに辞めたの。やりたかった事とは違ったからね。芸大目指してバイト中なのよね~」

佳代先輩はやりたい事に向かって進んでいる。それなのに俺ときたら、就活して入った会社の人間関係に押し潰されて、いつ辞表を出そうかタイミングを見計らっていた。

「人生一度きりだしね。後悔したくないから決意したの。両親納得してないけどね」

未来を見つめて煌めいている佳代先輩を見た俺も腹を括った。

明日辞表を出そう。そして俺は俺の理想郷を目指そう。昔から小説家を目指して書き溜めていた作品がある。臆病な性格だから応募にすら出さなかった。

だが、夢を捨てきれなかったんだ。作品を出版社に持って行ってみよう。応募もしてみよう。

佳代先輩のおかげで吹っ切れた俺は、夢を想い出させてくれた喫茶「理想郷」の常連客となり、執筆活動をする未来を想い浮かべて店を後にした。

10/31/2023, 9:05:45 AM

お題 懐かしく思うこと

彼女には過去の記憶が無い。現在が過ぎ去ると、全て忘れてしまう。だから懐かしく思う出来事なんて無い。

記憶欠損の障がいのせいで、現在しか分からない彼女。憂う過去が無いのは良いことかもしれない。だが、楽しかった過去すら記憶に無い。懐かしいとはいったい何なのだろう?

空虚な瞳。どこにも焦点を合わせてはいない。言葉も持たない。
それでも僕は彼女の側にいたい。記憶を持たなくてもいい。僕が懐かしんであげよう。彼女の代わりに。

愛してるよ……

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