お題 もう一つの物語
この星にもう一人の僕がいたとしたら、その僕はどんな暮らしをしているのだろうか?どんな服を着て、どんなものを食べて、どんな人と関わっているのだろうか?
「そんな事考えるなんてバカげてるな」
独り言ちた。どうやら僕は日々の忙しさに疲れているようだ。もう一人の僕がいたとしたら、この僕と代わってほしい。僕はどこか違うところへ逃げたい。とにかく助けてくれ。
「そうか。そんなにこの僕と代わりたいかい?じゃあ、代わってやろう」
突然天上から、僕そっくりの声が轟いた。まるでこの世以外からおりてきたかのような。
そして辺りの風景が一変した。見渡す限り虹色の花々で彩られた景色だ。
「ここなら誰にも邪魔されない。花咲き乱れる楽園だ。ここで暮せばいい。永遠に」
なんだって?永遠にだと?美しい風景だが、永遠に過ごすなんて地獄じゃないか!
僕は元の世界へ戻る方法を求めて、当て所なく彷徨う事になった。こんなところへ連れてきたもう一人の僕が見つかればきっと……探し出してやる!
お題 暗がりの中で
暗いのは嫌い。なのに暗くしないと寝られない。わがままだなと思う。
嫌いな理由。何があるのか見えない不安と恐怖。昔行ったお化け屋敷がトラウマになっている。モノが倒れたとか、何かしらが現れたとか。でも一番怖かったのは、最後本物の人が、突然現れて脅かしにきたのだ。思わず母さんにしがみついて泣きじゃくった。
あれ以来暗がりは怖くなった。
だが、暗くしないと眠れない。些細な光でも気になって寝られないからだ。今夜も真っ暗にして寝る。何も出てこないことを祈りながら。
お題 紅茶の香り
紅茶の香りがするフレグランスを見つけた。ふわりと香る濡れた茶葉の匂い。なぜか不思議と心が落ち着く。小洒落たカフェでシフォンケーキを頂きたいような気分。
「紅茶の香りはストレス減少と、寝付きを良くする効果もあるそうですよ」
側にいた店員がそう話しかけてきた。確かに落ち着くと眠くなりそうな香りだ。私は香水をつけたりはしないが、夜寝る前くらいなら構わないだろう。
「これ、いくらですか?」
今夜が楽しくなりそうな予感だ。
お題 愛言葉
なんだろう。その一言が出てこない。大切な相手への、大事な一言なのに。口をひらいて言葉を発したいのに、胸がつっかえて言えない。もどかしくて辛い。
「じゃ、またな」
言わなきゃ、言わなきゃ。今言えないと後悔する。後悔したくない!!
「ま、待って」
「うん?どうかした?そんな顔して」
私は身体を震わせながらその一言を口にした。
「私、あなたのことが…」
その先を言おうとした時、
「好きだよ」
機先を制して大事な一言を相手から言われた。
「わ、わたしもあなたが好きよ」
その一言こそが、本当の愛言葉だったんだと、やっと知ったのだ。
お題 友達
俺はあいつにとって、大切な友達と思ってくれているのだろうか?自分に聞いてみても分かるはずなどない。
友達とはいったい何なんだろう。
もやもやしたままあいつと一緒にいるのはキツイから、思い切って聞いてみた。
「なあ、俺のこと友達だと思っているか?」
あいつはこう答えた。
「友達に決まってるじゃん。当たり前だろ?そうじゃなかったら一緒にいないよ」
そうだよな。一緒にいるのが当たり前だから分からなくなってたんだ。あいつはごく自然と友達だと思ってくれていたんだ。
「ごめん、変なこと聞いたな」
あいつはにこっと笑いかけてくれた。
それでいいんだったな。友達なんてのはそんな感じなんだな。そっと心の中であいつに感謝した。
ありがとう。