お題 眠りにつく前に
私は眠りにつく前に、いつもおまじないをする。夢にあの人が出てきてほしいからだ。そうあの人。もう二度と会えないあの人。年数が経っても、あの時と同じ姿のままだ。あの人に会いたい。夢の中で会いたい。でもホントは夢じゃなく……
想い浮かべて涙が溢れる。胸が痛い。いつになったらホントに会いに行けるのか?
「決して僕を追って来ないでね。キミは僕の分も仕合せでいてほしい」
そんな書き置きのせいで、私はこの世に縛られている。あの人のいない仕合せなんて無いのに。
ある日のことだった。あの人の妹だという人が、私を訪ねて来た。
「突然訪れたのは、これを見つけたからなんです」
それは写真だった。写真なんて亡くなった後で、たくさん頂いたはず。
「ただの写真じゃないんです。なにか話しかけると表情で応えるんです。なにか話しかけてみて下さい」
そんな写真あるはず無いと思いながらも、話しかけてみる事にした。
「どうして逝ってしまったの。私、寂しいよ」
困った表情だ。
「あなたに会いに行きたい!!駄目なの?」
真剣な表情で私を見つめているようだ。私は涙を浮かべながらこう言った。
「今でも私を愛してる?」
満面の笑みを浮かべて応えてきた。
妹と言う人は、
「この写真、あなたに持っていてほしいの。ずっと寂しい表情のまま、あなたの側にいたがっている様子なの。だから大切にしてください」
と言った。
その日の晩からは、今日1日のあった事を、写真のあの人に話しかけるのが日課となった。
いつまでも笑顔で微笑みかけてくれるあの人を見てから眠りにつく為だ。
11/3/2023, 12:49:17 AM