なめくじ

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9/19/2024, 4:12:09 PM

肩が触れるような距離で話していたい。
膝の上を当然のように座ってみたい。
当たり前のように抱きつきたい。

人気者の彼は、何時だって周りを友達で囲む。
息がかかるほどの距離で笑い合うことに、
飛び付いても受け止めてもらえることに、
どれほど憧れ羨んだことか。

頬を赤らめながら手を繋ぎたい。
強く出張った喉仏に噛みつきたい。
乾燥気味の薄い唇に口付けをしたい。

ふと、誰かの肩越しに目が合う。

時間よ止まれ。
今はただ、この視線を独り占めしていたい。

9/16/2024, 3:21:06 PM

空が泣く。私を見兼ねて。
頑なに涙を流さない私を嘲笑うように、
それでいて静かに私の涙を待つように、
傘を差す間もなく頭から足元までを濡らした。

冷たい雨の筈なのに、頬だけが何故か温かくて。

嗚呼、ついに泣いてしまったのか。
空よ、私の負けだ。泣かせるのが上手い奴め。
一粒溢れたら、もう止まらない。
歯止めを失った涙は気の済むまで溢れ落ちる。



ふと、雨が止む。
否、私の頭上に傘が差された。
ずぶ濡れの私を抱き締める彼によって、
私の涙を雨粒ごと拭った彼によって、
私の雨は泣き止んだ。

冷えた身体は、彼の体温を求める。
彼の優しさは、酷い程に熱かった。

9/10/2024, 4:05:29 PM

知らない人間と手を繋ぐ君の笑顔が、
僕の網膜に焼き付いた。
怒りとも、悲しみとも違う。
空洞。僕の心に穴が空いた。
何かが出ていった気がした。

僕の事をなんとも思っていない視線が、
他人を見る目と何ら変わりない視線が、
僕の心を射止めて、深く抉るんだ。

君は僕の手の中に体温だけを残して去った。
君に貰った香水を未だに付けて虚しくなる。
君の手料理は今でも味を鮮明に思い出せる。
君が放った愛言葉は一言一句忘れていない。

目を開くと、言い知れぬ喪失感が襲いかかる。
君が僕の隣に居ないと思い知らされる。
君が僕以外に笑顔を向けているのを見せつけられる。

僕にとって君の存在は、
思っていたよりずっと大きなものだったらしい。

そして、君にとっての僕は、
替えの利く都合のいい人間だったみたいだ。

9/7/2024, 1:09:18 PM

僕には、君が時々小さな小さな妖精の様に見える。
踊るように僕の周りを飛び跳ね、
歌うように僕の名前を呼び、
鱗粉を振り撒くように笑うんだ。

可愛らしくて仕方がない。
誰からも愛でられている、美しく可憐な少女。
そんな君の羽根をもげたなら、
どれほど満たされるのだろう。

その瞳に大きな大きな涙を浮かばせ、
僕の手の中でしか生きられなくなった君は、
どれほど愛おしいのだろう。

ああ、でも。
その晴れたような笑顔が見られなくなるのは、
まったくもって惜しいなあ。

8/27/2024, 6:01:47 PM

心配されたかった。
誰でもいいから、涙を拭って欲しかった。
頭を撫でて、寄り添って欲しかった。

私の不調で誰かの予定が狂ってしまった時、
私の看病を第一に優先してくれた時、
優越感と満足感に浸ってしまった。

あの日からだ。同情を愛だと錯覚したのは。

熱を出したかった。
顔が真っ赤になるくらいに。
風邪を引きたかった。
病院で診てもらうくらいの。
看病してもらいたかった。
大事にされてる確信を得られるように。

なんでもいいから病名が欲しかった。
心配してもらうための大義名分が欲しかった。

私の不調を見抜いてくれるような、
私の不調を憐れんでくれるような、
大事に思ってくれてる人を見つけたくて。

雨に佇む。
熱が出ますようにと、祈りながら。

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