死のうと思ったことなんて、数え切れないほどあった。
ふとした瞬間の、衝動。
道路や踏切の中に入りたくなったり、
窓の外へ向かって飛び降りたくなったり、
家にある洗剤を片っ端から飲みたくなったり、
握っている包丁を首に滑らせたくなったり。
生きてるのが辛いとか、多分そんなことではなかった。
死ぬことに興味を抱いてしまった。それだけだった。
死ななかったことに、大した理由は無い。
まだ読んでない本が家にあった。
そういえば友達と遊ぶ約束をしていた。
死ぬことに対する好奇心を、
生きないと叶わない別の何かで上書きしただけ。
そんな他愛もない日常が、私を生かしていた。
私が今生きているのは、きっとその延長線。
私が生きる意味は、この日々を過ごすため。
生きる意味なんて、その程度。
死なない理由なんて、そこまでない。
だからこそ、この生活がかけがえのないものなんだ。
ずっとずっと好きなのは、許されないこと。
あなたに想い人が出来ても。
そんな想い人と結ばれても。
子宝に恵まれ、幸せな家庭を築いていても。
ずっとずっと好きなのよ。
たとえ老いぼれてしまっても。
私に向ける笑顔じゃなくても。
それでも、好いてしまうから。
流れ星に願いを込める。
想いを伝えるなんてことはしないけど、
叶わぬ恋を抱き続けるのは苦しいから。
たとえ叶わぬ願いであっても、
たとえ願ってはいけないものであっても、
この一瞬の輝きに託すくらいは許して欲しいの。
あの流れ星のように、
私の恋心も眩く流れ落ちてしまえばいいのに。
君が私から逃げられる瞬間は、いくらでもあった。
それでも私の手を離さなかったんだ。
散々私に頼って生きてきたじゃないか。
今更逃げたいだなんて、自分勝手が過ぎるぞ。
理解できない。君には私が必要だろうに。
私がいなければ何も出来ない癖に、
何も出来なかった癖に、
私を遠ざける理由はなんだ?
わざわざ綺麗な道を敷いてやっているのに、
断固として自分の道を突き進むのは何故だ?
君にとって私の手を振り払わなかったことが
たとえ間違いだったとしても、逃げることは許さない。
私が君から離れたら、どんなに困るか教えてあげよう。
目を腫らすまで泣いたって、涙を拭ってやらないよ。
喉が枯れるまで叫んだって、君を慰めてやらないよ。
君が自分から僕を求めれば、手を伸ばしてやるのに。
ねぇ、身をもって知っただろう?
君は私なくして生きていくことなんてできやしない。
これからだって、頼らないと生きていけないんだよ。
もう一度手を繋がせて欲しい。
ほら、そう言ってしまえば楽になれるのに。
頑なに口を開かない君が、どうにも愛らしくて。
全く私は気味が悪いよ。ぜんぶ、君が悪いんだ。
俯いてしまうほど辛いことがあった日は、
夜が明けるまで走るんだ。
足が痛くなっても、肺がちぎれそうになっても、
朝日が目を刺すまで止まらない。
頬を伝う雫が、汗と混ざって落ちてゆく。
流して流して泣き叫んで、心ゆくまで走り続ける。
頬が乾き切った時、私はきっと前を向けているから。
がむしゃらに駆け抜けた先に、私の明日が待っている。
君は私に別れを告げた。
贅沢させてやれる金もない。
二人で広々と住める家もない。
共に居れる時間も余裕もない。
お前を幸せにはできないと、私の手を離したんだ。
君は何も分かっていないらしい。
私は君にケーキを買うようなお金が無いことも、
二人で住むには窮屈な家だということも、
共に思い出を作ることが難しいことも、
全てわかっていたよ。
それでも君を選んだんだよ。
ケーキよりも君のただいまが何より嬉しい。
窮屈ならばもっと寄り添えばいい。
どこかへ出掛けなくとも、
君と手を握れていればそれでいいんだ。
何もいらないの。君だけでよかったんだよ。