暗い。狭い。息苦しい。
ここはどこ。今は朝?昼?夜?もう分からない。
ここに入れられてからどれくらい経った?
たまに投げ入れられる残飯。私の存在は家畜以下、そういう事か。
時たま様子を見に来る女の人。私の弱った姿を見て満足そうに去っていく。
私をこんなにした張本人。
あれ、どうしてここにいるんだっけ。
あぁ、そうだ。新しく来たお嫁さんに嵌められたんだっけ。私は言いつけ通りに小さい時から御主人様の番犬やってたのになぁ。
御主人様も助けには来てくれないよね。あんなにお嫁さんの言ってた事信じ切ってたし。全部嘘なのになぁ。
18年の忠誠と絆より、3ヶ月の婚約者だったのね。
嫌いだ。何もかも。消えてしまえばいい。
許さない。主人も、女も、当主も、世界も。
次に生まれ変わったら、また私になろう。
そして何もかも、ぶっ壊してやろう。
まずは女を消して、主人の寝首を搔いてやろう。
眠くなってきたなぁ。ここで寝たら終わりか。
まぁ、いいや。どーせ転生とか出来ないしなぁ。
また何処かで。次は私が愛される世界で。静かに生きたいな。
サ ヨ ナ ラ .
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『起きて、番犬。朝だよ。今日は寝坊じゃん、どうしたの。』
「ん、おはようございます。御主人様。」
見慣れた2畳半の狭い部屋。でも暗くて狭くない。
あーぁ、転生成功しちゃった笑
#狭い部屋
『また振られちゃったわ~。』
“え~、また~?”
「今回はちょっと長かったね。」
『長かったって言うけどさ~、暁、失恋は愚か付き合った人もいないじゃん笑』
「そ~だね~。」
何度目だろうか。この子の話を聞くのは。そしてこの子は知らない。
私の青春の1ページを。
あの痺れるような甘い恋を。
知っていたとしても、あんたに語らせてたまるもんか。あれは、あの恋は、私だけのもの。
#失恋
“ 正直に生きましょう。”
“ 正直になりましょう。”
“ 正直でいる事を疑ってはいけません。”
“ それを続ければ、きっと教祖様が救って下さいますよ。”
狂ってる。このよく分からない宗教も、それに心酔する両親も。此処に連れてこられて、座敷に1人座らされている私も。
1人、また1人と増えていく信者達。
私の前で頭を垂れる。私は扇を口元に当てて冷たい視線で見下ろす。私の仕事。存在意義。
何を言おう教祖様とやらは私だ。
純日本人の癖に持って生まれた赤い目。親は私をお金目当てとして使う。私にはなんの力もないのに。
正直をモットーにしている癖に、今日もまた、力も無いのに、教祖として、嘘で作られた宗教の中で、静かに息をする。
#正直
雨が降る。季節が巡る。あの頃を思い出す。
少し大きなセーラー服に身を包んだあの頃を。
君の学ラン姿が好きだった。進学してブレザーになった時、いつもと違うむず痒さに少し浮き足立った。
好きだと。一言。喉からつっかえて出てこない。
私がうじうじしている間に。君はふわふわした可愛い女の子と幸せそうに笑ってた。
紹介してくれてどうもありがとう。
そっかぁ、君は背が低くて胸が大きくてふわふわした、私と正反対の子が好きだったのね。
心の雨を洗い流すかの様に。雨が降る。
梅雨は好きでは無い。髪が言う事を聞かないから。でも今は、私の心も言う事を聞かない。
また巡る。巡り巡って季節が変わる。
左手に光る指輪に触れ、梅雨に出会った貴方のお陰で、今度は、梅雨を好きになる。
#梅雨
~~~~になるでしょう。お出かけの際には傘を持って―。
『今日途中から雨だってさ。宵君の折りたたみ傘探してくるね。』
「ぁ、ほんとに?ありがと。」
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「じゃ、いってきます。今日は定時で帰ってくるね。」
『うん、ご馳走作って待ってるね。』
いつものようにキスをしてハグをしてお互いを確かめ合って家を出る。
『宵君!!傘忘れてるy 』
< ドンッ.ᐟ.ᐟ.ᐟ.ᐟ.ᐟ キィィィッ.ᐟ.ᐟ.ᐟ.ᐟ ガシャン.ᐟ.ᐟ.ᐟ.ᐟ.ᐟ>
「ぇ、?」
流れる血。零れる汗。染まるアスファルト。逃げる車。電話する声。好奇の目。野次馬のカメラ。
ただ。ただ、そこに立っていた。何も考えられず。さっき確かめ合った感触はまだ残っていて。手を伸ばせば触れられそうな距離に、ピクリとも動かない君。また同様少しも動けない、僕。
足が動く。血だらけの君を抱き締める。
冷たい。
「そういえば、お姫様はキスをすれば目覚めるんだっけ。」なんて考えながら、
キスをする。
起きない。冷たい。脱力しきった体。僕の愛おしい、君。動かない。なぜ。おかしい。
起きろ。起きろ。起きろ。起きろ。起きろ。
──────────
目が覚める。
隣には暖かな、君。
あぁ、夢か。良かった。安堵する。
「おはよ。」
眠そうにまぶたを擦り、テレビをつける愛おしい君。
『今日途中から雨だってさ。~~~~。』
ぇ?
待ってくれ。どういうことだ。やめてくれ。頼む。何が起こってる?
お願いだ。夢だと言ってくれ。君は生きていると。もう一度この腕に抱けると。
『宵君の折りたたみ傘探してくるね。』
やめてくれ。天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、
#天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、