仕事を終えて、家に帰宅した。
さて、
洗濯機を回して、風呂に入って、ご飯を食べて…etc
家に帰ってからも、一人暮らしは何かと忙しい。
と言っても、仕事帰りで疲労しきった私は、いつも途中で面倒くさくなって半端に終わらせてしまうので、次の休日に溜まった仕事をまとめて片付けさせられる私に睨まれてしまう。
まあ、どうせ今日も半端に終わらせるのだが。
缶ビールを求めて冷蔵庫を開くと、中には私の大好きなチーズケーキと一枚の手紙が入っていた。
『いつもお勤めご苦労様。明日も大変だろうけど、これを食べて頑張れ。ハッピーバレンタイン!』
ありがとう、昨日の私。
「すいません。財布を忘れてしまって…すぐに取りに帰るので、少し待ってて貰っていいですか?」
「分かりました。できれば身分証か何かお預かりさせていただきたいのですが」
「すいません。今は免許証しか持ち合わせがなくて」
「では免許証をお預かりさせていただきます」
私がそう言うと、客は激怒した。
「免許証なしで、どうやって車を運転すればいいんだ?50キロ先の俺の家まで歩いて帰れとでも言いたいのか!?」
「い、いえ、そういうつもりでは、申し訳ございません」
客は茹で上がったタコのように顔を真っ赤にさせると、
指にはめていた24カラットのダイヤモンドの指輪を、どがんとレジの横に叩きつけ、財布を取りに帰っていった。
あれからふた月経つのだが、未だにあの客は帰ってこない。
私が交番に届けた方がいいのではと問うと、店長は「まあその内来るだろ」と呑気な返事を返すのだった。
ある日、私が退勤のタイムカードを押そうとすると、真剣な顔をした店長に話しかけられた。
「ちょっと交番に届けてくる。すぐ戻ってくるから、帰るの少し待ってて貰っていいか」
流石に少し心配になってきたのだろう。
店長は急いで指輪をポケットに詰め込むと、愛車に乗って交番に向かった。
あれから1年経つのだが、未だに店長は帰ってこない。
あの日この場所で、
僕たちは15年後にまた、ここに集まることを約束した。
スポーツ万能だった俊介は、
有名な飲食店で働いているらしい。
給料もそれなりによく、来年には主任という役職に昇進するのだが、なんとそのタイミングで、今の彼女にプロポーズを企んでいるようだ。
昔付き合っていた彼女ともお似合いで、
良いカップルだと思っていたのだが、ついに新しい道に進むことを決心したのだろう。
いつか2人でお店を開くんだと言いながら、とても幸せそうに笑っていた。
学年で1番勉強ができた聡は、
今は医者の卵として勉強漬けの日々だという。
あれだけ勉強をしていたのに、こいつはまだ勉強をしているのかと少し呆れてしまったが、
他のみんなはどこか尊敬と嫉妬のような眼差しで聡を見つめていた。
医者を目指すにはコミュニケーション能力も必要のようで、どちらかと言うとそっちの方をメインで学んでいるんだ、と聡は恥ずかしげに頭をさすってみせる。
やたら女子人気が高かった圭一は、
なんと超大手外資系企業の営業マンとして働いていたらしい。
しかし、同僚の女の子に手を出しすぎて、とうとう先月仕事を辞めることになってしまったと衝撃のカミングアウト。
昔から、月一くらいで新しい彼女が出来るような奴で、
少し嫌な予感がしていたのだが、
まさか仕事をクビになってしまうだなんて…本当にどうしようも無い男だ。
弁護士やら慰謝料やらと、他のみんなに何やら色々と難しい話をしていたので、どうやら単純な話では無さそうだ。
最後に圭一は、女の子の口説き方ならいつでも聞いてくれと言っていたが、他の2人は乾いた声で笑っていた。
みんなあの頃の面影を残しつつも、やはり大人になってしまったようだ。
僕には難しくて、よく分からない話ばかりだった。
それでも、本当に15年後、またここに全員集まれるなんて思っていなかった。
だからそれだけでも、とても嬉しかったんだ。
「明人は、今頃どうしてるかなぁ」
3人は、ぼんやりと空を見上げていた。
カエルが卵を産む数は、
一度におそよ数千から1万を超えるという。
卵たちの誰もがみんな、カエルになれる訳ではなく、
卵の95%がオタマジャクシになれるらしい。
オタマジャクシたちが、何とかカエルまで成長できるのは、およそ20%。
更にその中から、
親となり卵を産むことができるのは、大体2%だと言われている。
つまり、仮にカエルが卵を10000個産んだとしても、
その中から親ガエルになれる確率は0.002%くらいしかない。
だから何だという話ではあるが、これは年末ジャンボで3等の100万円が当たる確率と同じである。
ピンポーン
玄関のインターホンが鳴った。
誰だろうと思いながら、女性はモニター越しに様子を伺うと、外には帽子を被った超絶イケメンの若い男性が立っていた。
「宅配でーす」
「あ、はーい。すぐ行きます」
慌てて玄関の扉を開けると、さっきの男が両手に一杯の花束を抱えいた。
男は女性を見つめると、美しく微笑んだ。
「この花束を、美しく愛しい貴方に差し上げたいのです」
「えっ、これを?私に」
突然の出来事に困惑する女性。
「どうか、受け取ってくれませんか」
男は頭を下げ、女性に花束を差し出した。
名前も知らない男性に、ドラマでも見たことの無いような展開。
上目遣いにこちらを見つめる男性と視線が重った。
「はい、受け取ります」
女性は胸のときめきの赴くままに、男性から花束を受け取ると、にっこりと微笑んでみせる。
「ありがとうございます」
男性もにっこりと微笑むと、右ポケットから1枚の紙を取り出した。
「では受領にサインをお願いします。代引きで5,500円です」