「すいません。財布を忘れてしまって…すぐに取りに帰るので、少し待ってて貰っていいですか?」
「分かりました。できれば身分証か何かお預かりさせていただきたいのですが」
「すいません。今は免許証しか持ち合わせがなくて」
「では免許証をお預かりさせていただきます」
私がそう言うと、客は激怒した。
「免許証なしで、どうやって車を運転すればいいんだ?50キロ先の俺の家まで歩いて帰れとでも言いたいのか!?」
「い、いえ、そういうつもりでは、申し訳ございません」
客は茹で上がったタコのように顔を真っ赤にさせると、
指にはめていた24カラットのダイヤモンドの指輪を、どがんとレジの横に叩きつけ、財布を取りに帰っていった。
あれからふた月経つのだが、未だにあの客は帰ってこない。
私が交番に届けた方がいいのではと問うと、店長は「まあその内来るだろ」と呑気な返事を返すのだった。
ある日、私が退勤のタイムカードを押そうとすると、真剣な顔をした店長に話しかけられた。
「ちょっと交番に届けてくる。すぐ戻ってくるから、帰るの少し待ってて貰っていいか」
流石に少し心配になってきたのだろう。
店長は急いで指輪をポケットに詰め込むと、愛車に乗って交番に向かった。
あれから1年経つのだが、未だに店長は帰ってこない。
2/13/2024, 12:16:35 PM