世界が二つに分かれたとき、ぼくは大切な人と二度と会えなくなってしまった。
そう思っていた。
ある男が片方の世界にいる家族に会うために大きな大きな崖を渡った。その崖は落ちればどこに行くのか分からないほどの深さで橋をかけないと渡れないほどの距離があった。だが男はその崖を見事に渡った。いや正確に言えば崖からは落ちたが向こうの崖に行くことが出来たのだ。
あまりにも非現実的な話に最初は誰も信じなかった。しかし、向こうの世界に行けた彼が家族と幸せに団らんをしている姿を度々見るようになり、噂話が現実となった。
しかし、男がどのようにして渡ったのかはまだ分からない。ひとつわかるとするなら落ちても無事だったということだ。落ちても死なないならと思うが落ちることには変わりはなくもしかしたら死ぬかもしれない可能性が頭をよぎり人々はだれ一人挑戦しようとしなかった。
僕もそのひとりだ。
落ちたら死ぬ。死ねば意味が無い、そう思い動くに動けなかった。
そんなある日ぼくは日々の観察で崖のギリギリまで見に行った時、崖の向こうにあの男がいた。彼は何かを叫んでいた。ぼくは口を呼んで読み取った。
彼はこう言った。
こっちへおいで。怖くない。さあおいで
これの繰り返しだった。ぼくはなにか違和感を感じた。
どうしてこんなにも誘ってくるのだろうか。誘うぐらいなら行き方を教えてくれてもいいじゃないか。それになぜ同じことを繰り返すんだ。そう思考を巡らせていると。男の他に小さな男の子が現れた。少年は僕の弟だった。ぼくは弟を見た瞬間ネジが外れたかのように今までの思考が消えただ弟に会いたい向こうに行きたいという考えしか頭になかった。そしてぼくはーーー
目が覚めるとそこには広い天井が拡がっていた。
ここはどこかそう思い体を起こす。
その時ちょうど人が入ってきた。どうやらこの家の主人らしい。主人はどうして寝ているのかを教えてくれた。
弟を見た僕はフラフラとしながら崖の下に落ちようとしていたそうだった。それを見ていた主人は僕を引っ張ってここまで連れてきてくれたそうだ。
すると主人は口を開いた。
お前は何を見ていたのだと
僕は答えた。向こうにあの男の人と僕の弟がいたんだ。
そういうと主人は不思議そうに首を傾け衝撃的なことを口にした。
なんとあの崖自体見えていなかったという。だが僕には向こうに崖があり男と弟がいたのをこの目で見た。信じ難いことにぼくは部屋を飛び出し崖に向かった。すると本当に向こうの崖はきりで見えなくなっていた。
ぼくは唖然としながら崖のある方を見ていた。
静寂な崖から声が聞こえる。
あと少し……少し……
何が少しなのか分からない。ただ、この場所には二度と来ては行けないと。弟に会いたい、けど、この崖を超えてしまえばここに戻りたくなってもきっと戻ることができなくなると心が訴えかけてくる。
その後ぼくはこの崖に近づけないように壁を作ることにした。あの崖は生きている人を惑わせる。
100年後
少年はその壁の向こうに興味があった。
想像をふくらませた。
少年は壁を登った。
登るために使った布に風が当たり、ひらりと揺れた。
その瞬間、布はひらひらと空を舞った。
崖の向こうの彼らはまた誰かを読んでいる
狭い、苦しい、でも暖かくて心が落ち着く
でもそろそろここを出ないと。
いくら暖かくて居心地が良くても狭くてくるしいのに変わりは無い。
僕は狭さと戦いながら必死に体を動かし出口を探した。
壁に手をつきながらゆっくりとほふく前進で進む。
狭さでなかなか進まない中ようやく出口と思われる光を見つけた。
しかしそこは生きて出られるか分からないほど小さな出口だった。
もし、このまま行けば最悪窒息死するかもしれないけれど出るためにはそこしか道は無い。
死ぬかもしれない苦境に立たされながらも必死に体をよじりながら進む。手で窒息しないように穴を少しずつ抜けていく。そしてーーー
『おぎゃあおぎゃあ!!!』
僕は死ぬかもしれない苦境にほんの僅かな勇気で立ち向かうことが出来た。僕にとってこれが人生で最初の試練だ。
ここはどこだろうか。
霧の中1人舟の上にいた。
俺は一体なにをしにここにいるのか。
光もない
鳥もいない
風もない
ここは一体……
そんな俺の目の前に黒いうさぎが現れた。
そのうさぎはそそくさと走っている。いや飛んでいる?
海なのか川なのか池なのか分からないがどこかの水の上を走っている。
黒いうさぎは霧に入ろうとしていた
俺は急いで舟を漕いだ。
目の前がとたんに見えなくなった。否、明るくなったのだあまりの光に。
ようやく俺はどこかの土地にたどり着いた。
うさぎの姿はどこにも見当たらなかった。
しかし俺にはわかる
それは俺にとっての*命の羅針盤*だ。
先輩は今何しているだろうか。
僕は毎日夜になると先輩のことを思い浮かべてしまう。
それも無理は無いのかもしれない、何せ先輩と初めて会ったのが夜だったのだから。
ーー10年前ーー
先輩と出会ったのは僕が小学生の時、両親と喧嘩して家を出た時だった。あのときの僕は近所で噂のガキ大将だった。そんな僕だったから先輩に声をかけられた時も暴言を吐き散らしてしまった。
けど、先輩はそんな僕でも優しく声をかけてくれた。
それが先輩と僕の初めての会話だ。
あまりにも最悪で普通の人なら嫌ったり逃げたりしたのだろうけど先輩は僕と目を合わせてしっかり話を聞いてくれた。
それから僕たちは毎日のように話すようになった。ただ不思議だったのは夜にしか会うことができないということだけだ。
それに関して僕は特に何も聞かなかった。いや聞けなかった。
あのいつも明るく優しい笑顔の先輩がたまにどこを見つめているのか分からない表情で夜空を見つめていたから……
それから先輩は高校を卒業して東京の大学に行くことになったのを境に会う回数が減って行った。
そして先輩がとうとう一人暮らしをすることになり、この地域にはほとんど戻って来れないと聞いた僕は急いで先輩の元へ向かった。
向かった先には高校の子供らしさの残った姿から完全に大人に生まれ変わった先輩がいた。
あまりの綺麗さに僕は言葉を失った。
先輩はそんな僕を少し笑って、綺麗かと尋ねてきた。
僕はもちろん綺麗だと答えた。
少し先輩と話をしたあとそろそろ帰ろうとする時先輩は僕の名前を呼び目の前に何かを差し出してきた。
目の前に差し出されたのはネックレスにされた光った小さな石だった。
これは何と尋ねると。
先輩はお守りだよと言った。
じゃあこの石は?
そう僕が尋ねると
君を守るために私がおまじないをかけた石だよ。
そう笑顔で言って見せた。
僕は不思議に思いながらもその石を握りしめた。
そんな僕を見た先輩は安心したような顔で
,,おやすみなさい,,
と言った。
僕もオウム返しのように挨拶をかわし帰路をたった。
ーー現在ーーー
あの時の石は僕の手元にまだある。
貰った日から不安を感じたりした時いつも握っていた。
まるで本当の御守りのように先輩がすぐ近くにいるような感じがした。
もう一度会いたい。あって沢山今までの事を話したい。
それから……謝らなきゃいけないことがある
僕はあの時先輩のバッグの中にたくさんの石を入れたんだなぜ入れたのかは分からないただ入れなきゃと思った。先輩に何かを大切にして欲しかった。今もそれが何か分からない。
先輩怒ってるかな、それとも呆れちゃったかな?
だからまた会いたい。
ごめんなさいってちゃんと目を合わせて初めてであった時のようにしっかり目を合わせて。
今夜も月が先輩とぼくの石を照らしている。その光は月よりも美しく太陽のように情熱的だ。
星のカケラ
変わらないものは無い
太平洋戦争終戦後、僕はようやく失ったものの多さを理解した。
あまりにも多く、重く、残酷で毎日のように献花をする人がいた。僕もその1人。
僕には彼女がいた。人生で初めて愛した人で一生幸せにすると誓った人でもあった。戦場に出向く時も彼女と幸せになると誓った、のに、その願いも虚しく彼女はあの日落とされた爆弾によって灰になってしまった。
僕は運良く助かってしまった。ああ、どうして神様は何もかもを奪ってしまうのか。いや、神様のせいでは無い全て僕たち人類の欲がため奪われてしまったのだ。そんな世界が憎くて仕方がなかった。
そんな絶望に蝕まれた僕に一筋の光が見えた。
ある科学者に出会った。その人は彼なのか彼女なのかよく分からない人だった。何より不思議だったのは見たこともない服装をしていたのだ。近いものといえばこの国の敵国西洋の衣装にとても似ていた。しかしその容姿は僕たちと同じ人種であることは明白だった。そんな人が提案したのは彼女の遺品から人体蘇生をすることだった。初めて聞いた時はよく分からず、そんなことをするくらいなら死んでしまった方がマシだと思っていたが科学者に彼女と話してから死んでもいいのでは無いか。と問われ僕は自然とその言葉に納得しすることを決意した。その科学者はまず彼女の遺品を整理して欲しいとお願いされたので、とりあえず遺品を整理することにした。
そういえば僕は彼女が死んでしまったと聞いてから絶望していたこともあり遺品に手をつけなかったことを思い出した。
時計、ネックレス、ティーカップ、クマのぬいぐるみ、宝石の付いた指輪…宝石?こんな高価なものいつ買ったのかネックレスも僕がプレゼントしたものもあるが見たこともないのがほとんどだった。僕は不意に両親と彼女の両親の気まずそうな顔を思い出した。でも、もしかしたら彼女が死んだことを伝えるのに渋っただけかもしれない、そう思い僕はまた遺品を整理し始めた。
次に探したのは彼女の部屋の引き出しの中。
開けてみると中には無数の手紙があった。
親からの手紙、僕からの手紙、友達からの手紙、彼女と親しい人からの手紙が多くあった。
その次に下の引き出しに手を出した。しかし鍵がかかっており開けることができなかった。
鍵をかけるということに僕は少しばかりの不信感を抱いた。
人が鍵をかけるというのはなにかか隠したいものがあるときだ。
だとしても遠くに鍵を置くとは考えられないことから引き出しの周りを調べることにした。
するとベッドの枕に目をつけた。基本的には並んでおかれているものの一つだけ遠くに置かれあたかもどこに置いたか分からなくならないように配置された枕があった。もしやと思い手を伸ばす。
そこには箱のような硬さのものが入っており取り出すと案の定箱が入っていた。
そこを開けると鍵穴にピッタリの鍵があった。
その鍵で引き出しを開けるとそこには上の引き出しとは比にならないほどの手紙があった。その手紙は僕の親友との愛の手紙だった。思わず目を覆いたくなった。まさか、彼女が親友を愛していたとは。けれど僕の親友は戦争で僕を守って死んだ。彼女が死んだのも親友が死んだ日と同じであった。両親は知っていたのか。知っていたなら素直に言ってくれたら良かったのに。嘘をつかれた事実と彼女に愛されていなかった事実に僕は頭が真っ白になってしまった。
どれくらい経ったのか、カラスの呼ぶ声に目が覚めると気がつけば空色に澄んでいた空がオレンジ色に輝いていた。
そこには科学者がたっていた。
科学者は遺品は見つかりましたかと聞いてきた。
僕は無言で下を向いたままだった。
しかし思考はしっかりしていた。もしこの手紙を使えば彼女は僕を覚えているのか、親友の愛した彼女なのではないか。いや、もしかしたら一緒に過ごせば僕の愛した彼女になるのでは無いか。そんな考えもあった。
それを察したのかはたまた偶然かは知らないが科学者は
人はそう変わらないですよ。いくら衣食住を共にしても親友を愛した彼女であることは変わらない。それでもいいんですか。だとしてもあなたへの手紙を使ってもそれは彼女の本当の姿じゃない。
どうします?
そう聞いた科学者はまた窓の外を眺め始めた。
……彼女の本当の姿じゃない……
僕の胸にその言葉が木霊する。
確かに僕の送ったものでも彼女の本当の姿では無い。
親友の前だけが彼女の本当の姿を出すことの出来る唯一の時間。
そう考え僕は僕なりの答えを出した。
 ̄ ̄ ̄ ̄お父さん。
僕の前には僕をそう呼ぶ彼女が立っていた。
変わらないものは無い