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2/24/2026, 12:02:23 PM

駅前の路地裏、怪しげな光を放つ、占いの機械に百円玉を放り込んだ。
音を立てて吐き出された紙片には、私の運勢がびっしりと書き込まれている。
​「……え、見てこれ!」
​友人と顔を見合わせ、声を弾ませる。
指差した先には、こう記されていた。
​『貴方の寿 は、二十五歳』
​「寿(ことぶき)って、結婚ってことでしょ? 私、あと二年で結婚できるんだ!」
「いいなー! 玉の輿かもよ?」
​私は浮かれた。その言葉をお守りのように大切に財布に仕舞った。

​二年の月日は瞬く間に過ぎ、私は二十五歳の誕生日を迎えた。
その日は雪だった。
鳴り響くクラクション、凍った路面に滑るタイヤの音。
歩道を歩いていたはずの私の視界が激しく回転し、体が地面に叩きつけられる。
​アスファルトの上で、意識が遠のいていく。
宙を舞う財布から、飛び出したあの紙が、舞い散る雪と共に、私の目の前にひらりと舞い降りた。
​薄れゆく視界の中で、私はそれを見た。
​『寿 』という文字のすぐ隣。
あまりにも、あまりにも小さく、それは書き添えられていた​。
『命』という文字。

最後の瞬間、私は理解した。
紙に書かれていたのは、幸せの予言ではなく、人生終了の宣告だった。


『小さな命』


2/23/2026, 3:43:35 PM

『LOVE YOU』
2人並んで歩く、放課後の帰り道。
アタイの隣には、教科書ばっかり見てる、ひょろっとした真面目な男。
レディースの頭を張ってるアタイが、よりによってこんな男を好きになるなんて、一生の不覚だ。

​夕日に照らされた川面を見つめたまま、アタイは立ち止まった。
恥ずかしすぎて「好き」だの「愛してる」だのは、口が裂けても言えねえ……
アタイは隠し持っていた一張羅をカバンから引っ張り出した。
​バサリ、と派手な音を立てて、それを羽織る。
​「アンタッ……これを見なッ」
​アタイは背中を向けて、仁王立ちになった。
金糸の刺繍が夕光を跳ね返す。アタイの誇り、魂の四文字。
​『 愛 羅 武 勇 』
​これなら、アタイの想いが届くはずだ。
心臓が爆音を鳴らす。返事を待つ数秒が、集会の喧騒よりずっと長く感じた。

​背後から困ったような声が聞こえる。
​「……ええと……なんて書いてあるの? 」
​アタイはズッコケた。
​「……もういい! 忘れな!」
​「えっ、待ってよ! ちゃんと教えてよ!」
​慌てて追いかけてくるヤツの顔は、どこまでも真っ白で、どこまでも純粋だった。
アタイは前を向いたまま、心の中で毒づく。
真面目すぎるコイツに、アタイのLOVE YOUが伝わるには、まだ相当な時間がかかりそうだ。

2/22/2026, 10:28:33 AM

『太陽のような』


​カーテンを開けた瞬間、飛び込んできた光に目を細める。窓を開けると、さわやかな風が吹き抜けた。
今日は最高の洗濯日和だ。
休日の朝、いつもより早く目が覚めた自分を褒めてやりたい。真っ白なシャツをバサリと振り、物干し竿にかけていく。
​ジリジリと肌を焼くような、力強い日差し。
「この暑さなら、お昼前には乾いちゃうな」
​籠を空にして、僕は大きく伸びをした。朝から充実感で胸がいっぱいだ。
達成感とともに、空に鎮座する太陽を仰ぎ見た。
​「……ん?」
​眩しさに目をこらす。
いつもなら直視できないはずの光が、なぜか今日は、その輪郭をくっきりと見せている。
​その太陽のような物は、不規則に上下左右に移動していた。
​「嘘だろ……動いてる……?」
​それは、昇るでも沈むでもない。
次の瞬間。
強烈な熱線を放つそいつは、僕の干したばかりのシャツを一瞬で乾燥させると、満足げに銀河の彼方へ消えていった。

2/21/2026, 1:40:27 PM


「……3、2、1」
​俺は、きつく目を閉じた。全身が強張る。
運命の瞬間。
タイマーが00:00を刻む​……だが、衝撃は来なかった。
​恐る恐る目を開けると、液晶の数字が次の数字に移行している。
​-00:01
​「……は?」
​爆発は起きない。それどころか、電子音は規則正しく響き続けている。
​-00:03
-00:04
タイマーは止まらなかった。0を何事もなかったかのように通り過ぎ、マイナスの領域へと突き進んでいく。
​1分が過ぎ、1時間が過ぎ、​24時間が経過した。
配線を引き抜いても、叩き壊そうとしても、赤い数字は無慈悲にマイナスを刻み続ける。
死ぬ覚悟は、いつの間にか空腹感に取って代わられていた。
​一ヶ月が過ぎ、一年が過ぎた。
もはや誰も、これが爆弾だったことすら覚えていない。
​ただ、赤い数字だけが虚しく減り続けている。
​「……もう、いっそ爆発してくれよ」
電子音は、今日も規則正しく響き続けている。


『0からの』

2/20/2026, 10:44:31 AM

『同情』

僕が担任するクラスの片隅には、金魚の住む小さな水槽がある。
ある日、金魚の尾びれが裂けているのが見つかった。
「かわいそう」
生徒が発したその一言で、教室は使命に燃えた。

自発的に餌当番が決まり、水替え表が貼られ、休み時間には水槽の前に人だかりができた。
『回復日記』と題された絵が描かれ
「がんばれ」と声がかかる。
金魚は、みんなの視線の中心で泳いだ。

一ヶ月後、尾びれはきれいに再生した。
「もう大丈夫だね」
水槽の前からは、人だかりが消えた。
元気に泳ぐ金魚は、誰の目にもとまらなくなった。

そして、綺麗だった水はゆっくりと濁っていく。
再び弱りはじめても、今度はもう誰も見向きもしなかった。

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