1000年先も
3度目の自殺に失敗したとき、
私は死ねないのだと悟った。
「うわー、なんでこれで大丈夫なの?」
私はスマホを叩きながら呟く。
水を溜めた洗面台に放り投げたスマホを見つめながら。
30分は少なくとも漬けておいたはずなのに何故か普通に作動している。思わず嘘だろと言ってしまった。防水性能で済ませていいのかこれは。仮にも貴方精密機器ですよね?。スピーカーは少し雑音が混じっていたが、YouTubeの水抜き音を6周ぐらい流してたら治った。嘘だと言ってくれ。逆に怖いわ。
「はっ、ご褒美ってか?。神さまは好きな子にちょっかい出しちゃうタイプなのかね?」
くたばれ!!!!!!!!!!!。
はぁ…。思わず…。でも声に出さなかったのは偉い。うんうん。
さて、私は自殺に失敗したわけだが。
1回目は縄跳びの縄で首を吊ろうとして失敗。
2回目は包丁で首を切ろうとして失敗。
3回目は風呂場で手首切って死のうとして失敗。
着実に死に近づいてるようで遠のいてますね。うん。
いやだって怖いんだもん。切れないよ。痛いのいや。
せっかく遺書(第一発見者になるであろうおじいちゃんへの謝罪)も書いたのに…。……後から見るとただただ恥ずかしいな…。自殺前に心の準備で部屋整えたから本当にただ部屋の掃除しただけになっちまったよ。
どうしちまうんだよ。どうもしないけど。
「あ〜、私は安心してんのかな。失敗して」
分からない。どうだろう。涙も出なかったし、誰にも自殺しようとしてたことはバレてないから分からない。
きっとみんな、私が自殺を何回も試みてるなんて知らない。知らずに、私の隣にいて、私がもしかしたらその時いなかったかもしれないなんて毛ほどにも思ってないことを考えたら、変な気持ちになる。
ぼんやりと、ぼんやりと思う。
きっと1000年先も私は死ねないと。
償いだろうか。
枷だろうか。
こんな歳にこんな馬鹿げたことを思ってるなんて、自分でも笑えてくるが、そう思えて仕方がない。
私が自殺に失敗したことの理由が欲しいのだろうか。
こんなもので理由になってしまうのか。
あぁ、私はなんでこんなことを考えなきゃいけないんだろうか。
全部全部悪い夢だったら良かったのにな。
勿忘草
『わたしを忘れないで』
………きらいっ!
いや、あぁ、急に汚い言葉を言ってしまって申し訳ない…でも…その……勿忘草の花言葉の『わたしを忘れないで』って…。なんか……気持ち悪くないか…?。
勿忘草が好きな人はほんっとうに申し訳ない。本当に。
多分読まない方がいい。
でも…、なんか…花言葉が女々しいっていうか…。
えぇ〜…。だっ…てぇ……。恋人に渡すとしても相手を信用してない気がするし、親族に渡すとしてもなんか惨めがましい気がする………。……惨めがましいってなんだ…?。なんでこんな嫌だってなるんだろう…なぜ⁇。
他の『誠の愛』だとか『真実の愛』だとか『真実の友情』だとか…う、うさんくせーッ!!。
なんだよ真実の愛って!他のも真実ってつけときゃいいだろって思ってるだろ!うぇーッ!ペッ!。
…あぁ、でもなんかこんなのにうえーっなってる自分が一番惨めな気がする。うああ…。
だって…あばば……。はぁ……。
ブランコ
ブランコに乗って、ブランコの座面をできるだけ地面から離れるように足を立てて、それから一気に離した時のあの感覚。
空がぎゅうんって近くなるような、上下が一瞬わかんなくなるようなあの感覚が好き。
お空に手は届くのかなぁ。
旅路の果てに
酒場の半戸がぎいいという音を立てて男を迎え入れた。
「いらっしゃい」
白い髭を蓄え、庶民服を着た店主がそう言った。
「旅の方かい?」
店主が男に聞く。
「あぁ。店主、キールをくれ」
大きな荷物を背負い、顔がすっぽりと隠れるほどのフードを被った男は静かにそう言った。
男はカウンター席につき荷物を下ろそうとした。とても大きな音が鳴ると思ったが、とても軽い音しか鳴らなかった。
男がフードを外す。
とても澄んだ翠緑の瞳をしているが、傷だらけの顔と大きな体には、とても不似合いである。
「はいどうぞ」
真紅の色をしたキールが男の前に差し出される。
男はそれを少し呑んだ。
「この街にはどれくらい滞在するんだい?」
店主が聞く。
「いや、実はここが旅の終着点なんだ。妹に会いにきてね」
男がそう返す。キールがゆらりと揺れる。
「おお。家族の再会って訳か。それはいいね。家族は大事にすべきだ」
店主は自慢の髭を触りながら歯がピカリと光るような笑みをした。
「そうだね。そう…。ほんとうに」
男は荷物を触りながら言った。
男はグラスに残った酒がなくなるまで、店主と他愛のない会話をした。
男がそろそろ出るかという時に、店主は聞いた。
その箱の中身はなんなんだい?、と。
すると男は翠緑の瞳を揺らめかせて、
「天国への梯子さ」
そう言った。
あなたに届けたい
拝啓、あなたへ。
この手紙をあなたが読んでいるということは、あなたはきっとわたしのことを知らないでしょう。
信じてくれないと思いますが、あなたとわたしは友達だったんですよ?。こう言うと変ですが、前世…みたいなものでしょうか。知らなくていいです。覚えてなくても、無理に思い出さなくてもいいです。ただ、ただ今はあなたに甘えさせてください。
年が明ける直前、2人で一緒にジャンプしたのを覚えていますか?。
あったかいコートと、手袋と、マフラーをつけても外はとても寒くて、あたり一面雪が積もっていて、雪はもう止んでるのに、雪が降ってた時より寒くて、息を吸うと、肺がズキンと痛くなったのを覚えています。
2人で積もった雪の上を歩いて、わたしが一緒に年が明ける直前にジャンプしようと言ったとき、あなたは少し嫌そうな顔をしていたけれど、一緒にジャンプしてくれたのがとても嬉しかった。
その時、私が着地をミスって、あなたに倒れ込んでしまってごめんなさい。あなたを下敷きにしてしまって…。多分…じゃなくて、後日の風邪は確実にわたしのせいです。ごめんなさい。でも、『背中寒すぎる』といって笑ってくれたのがとても嬉しかった。そのあと、あなたに『はやくどけ』と軽く叩かれてしまったけれど、無理に押し返そうとしてこなかったのがとても嬉しかった。とても、とても嬉しかった。
寒さなんか忘れてしまうほどに、暖かくて優しい温度だった。
忘れたくないと思いました。
わたし、髪を切りました。
胸まであった髪を耳がやっと隠れるくらいの短さまで。
だからきっと、あなたがわたしのことを覚えてくれていたとしても、多分あなたはわたしのことがわからないでしょう。
幸せになってください。
どうかいい夢を見てください。
あなたが悪夢にうなされる夜がありませんように。
あなたが、あなた自身を嫌いになってしまうことがありませんように。
だから、どうか、
あなたがわたしのことを忘れてくれるくらい、
いっぱいの幸せに囲まれますように。
ただ、それを切に、切に願っています。
令和8年1月30日