旅路の果てに
酒場の半戸がぎいいという音を立てて男を迎え入れた。
「いらっしゃい」
白い髭を蓄えた庶民服を着た店主がそう言った。
「旅の方かい?」
店主が男に聞く。
「あぁ。店主、キールをくれ」
大きな荷物を背負い、顔がすっぽりと隠れるほどのフードを被った男は静かにそう言った。
男はカウンター席につき荷物を下ろそうとした。とても大きな音が鳴ると思ったが、とても軽い音しか鳴らなかった。
男がフードを外す。
とても澄んだ翠緑の瞳をしているが、傷だらけの顔と大きな体には、とても不似合いである。
「はいどうぞ」
真紅の色をしたキールが男の前に差し出される。
男はそれを少し呑んだ。
「この街にはどれくらい滞在するんだい?」
店主が聞く。
「いや、実はここが旅の終着点なんだ。妹に会いにきてね」
男がそう返す。キールがゆらりと揺れる。
「おお。家族の再会って訳か。それはいいね。家族は大事にすべきだ」
店主は自慢の髭を触りながら歯がピカリと光るような笑みをした。
「そうだね。そう…。ほんとうに」
男は荷物を触りながら言った。
男はグラスに残った酒がなくなるまで、店主と他愛のない会話をした。
男がそろそろ出るかという時に、店主は聞いた。
その箱の中身はなんなんだい?、と。
すると男は翠緑の瞳を揺らめかせて、
「天国への梯子さ」
そう言った。
2/1/2026, 1:49:51 AM