伊藤透雪

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1/14/2026, 8:06:07 AM

夢を見てたい/イマジナリーな声


落ちる感覚のあとに辿り着いた森に、細い道が登り坂で緩くくねっている。
遠くから声が聞こえた気がして、目を細めて道の先を望むと、大樹が両翼を広げて、遠くから呼んでいる声が届いた。

ーヤ、ヤット、ト、キタカ。
ーサ、サアア、コチラ、ラ、ニ

カサ、と足元の草の音。呼ばれるままに一歩一歩進むうちに樹の根本が見えてきた。
森から開けた大地に広く根を張る樹から、空に向かって放たれる光が見える。
惹かれるように駆け出した私は、思い出した。遠い昔に出会っていた存在、懐かしい気配を纏っている存在を。

意識の中に表れ、話す相手の姿。
兄のような、いつも側に感じた存在と時々話していた幼い日の、遠い記憶が掘り起こされる。
辿り着いた幹に触れ、何度も撫でた。
あなたは居たのね。本当に居たのね。
涙が落ちた、愛おしいという感情に近い、思いが溢れ、


タイマーの音色が聞こえた。
私は軽い頭痛と目眩を感じて、
鳴っているメロディをオフにした。
触れるスマホの固さが、夢だと告げた。
私の頬を涙が流れていた。

このまま見ていたかった。
時間を超えてやっと見つけた便りが、消えてしまった。
何故今朝なのかは分からないけれど、温かいぬくもりに触れていた幸せが、夢の中で泡が膨らむように表れたのを、離すのが辛くて、少しだけぼんやりしたあと、
諦めて起き上がった。


今日は水曜日、まだ平日だから出る支度しなくちゃ。

1/13/2026, 7:21:48 AM

ずっとこのまま


ずっとこのまま、なんていや。

ちょっとでも変わりたい
ひと言ひと言、一筆一筆
とても遅くても
こころが動くから

ずっとこのままではいられない
もう端に火がついてる

1/12/2026, 8:37:16 AM

寒さが身に染みて/あの頃は若かった


夕べから降り始めたボタ雪が
今朝早くに吹雪いてきた
空は薄墨色に鈍い

今日は成人の日、
遠い昔の思い出に思い致せば
一緒になったあの人を思い出す
二人とも成人式にはゆかず
二人だけの結婚式をあげた
若過ぎると反対されたけれど
私たちは幸せだった
朝も夜もお互いの顔が見え
寂しさにメールすることも要らない
行ってきます、という声が
温かいのだから


それから幾十年、何が悪かったのか
今は薄くまぶたの裏を覗いてみても
お互いに
寒くなった寂しさよりも
一人になりたい二人だったのかもしれない
今は堪える
あの人は今頃
、、

1/11/2026, 3:45:15 AM

20歳/若い日々


新人のとき
心が乾き砂に滴るような
雫が集まって流れになるまで
たくさんの雨を必要とした
曇る日もあり晴れる日もあり
先輩たちの励ましと
同期との賑わいが
二十歳の日を通り過ぎた

二十歳とは
若さという強さと傲慢
弱いもの知らずな手足
分け入る社会の激しい海
で漁をする若者の一人として
賢明に手足を頭を動かす時
もがく日々だった

失敗して落ち込んで、たくさん
酒を飲んだ
愚痴る相手がなくても
酷く疲れても
ひと眠りできれば何とか

苦しい暗い道に迷い込んだとき
起き上がれないとき
支えてくれた仲間もまた
かつて若かった苦しみを
知っている先輩たちだった

1/10/2026, 4:03:30 AM

三日月/月と酒


夕暮れの陽が彼方に逝く前
三日月が残光を受けて残酷な目
で看取る
寒さが背筋を通って
両手の隙間から息が漏れるから
今夜は酒でも飲もう

暖かい部屋から窓越しに
月と酒を交わす
熱燗と湯豆腐で温める懐に
肴が落ちていくとき
彼は少しずつ上っていく

ほろ酔いのまま上る景色はどうだい
俺はまだ飲み足りないようだ
尤も明日は休日だから
炬燵に移って飲むのも良い
ひとり酒だ、誰に何を言われるでもなし

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