てふてふ蝶々

Open App
2/19/2025, 1:25:59 PM

あなたは誰

「あら、こんにちは。いらっしゃい」
そう言ってズズズと音を立てながら椅子に促されて座る。
「今日は雨が激しいのにわざわざありがとうございます」
そう言って老婆もベッドに腰掛ける。
「いかがなさいました?」
そう言って不思議そうに僕の顔をまじまじ見る老婆は、『あなたは誰?』と言わんばかり。
僕は「近くに居たので雨宿りがてら寄らせてもらいました。」
そう言ってにっこり笑う。
「そうでしたか。あぁ、そう言えばコレ、コレどうぞ。大したものでなくてごめんなさいね。」
そう言いながら、枕元にある戸棚から出して渡されたチョコボール。
クチバシの付いたチョコレート豆菓子。
「どうもすみません」
涙が出そうなのを堪えて喉が熱くなる。
「いえいえ、あなた、私の夫にも息子にもよく似ているものですから、ついね。同じ物が好きなんじゃないかって。」
老婆…私の母は私が幼い日の家族写真に目をやる。
「ほんと、よく似てるんです。ごめんなさいね」
ニコニコと愛想笑いの母に。
「いえ、とても嬉しいです。」
そう言うのが精一杯のぼく。

大学で上京してから、まともに帰らなくてごめん。
施設に入れっぱなしでごめん。
もっと一緒に過ごしたかった。
忘れられたくなんてなかったよ。

2/17/2025, 11:24:18 AM

輝き

私、結婚した事ないし、子供もいません。
別に今時の普通かもしれませんが、私70歳。
若い頃は普通じゃなかったんです。

でも、私は子育てのプロですよ。
教師でしたから。
もう、半世紀近く教育と子育てに関わってます。
定年で退職した後は子育てのサポートできるお仕事をしています。
現役ですよ。

子供はヤンチャも真面目も反抗期もみんな可愛いと思えるようになりました。
そりゃ、渦中はそれどころではありませんし、真っ当な道を歩めるように自分の持っている時間は全て子供達にと励んでおりました。

子供達の事ばかりを気にしていて気が付かなかったんですよ。私は。

子供がつまづいた時、悪かった時、そんな時を乗り越えてね、「ありがとうございました」って挨拶に来てくださる親御さん。

あんなに、輝いた笑顔は子供にはできません。

2/16/2025, 1:04:19 PM

時間よ止まれ

君がくれたチョコレートはカバンの中。
バレンタインに「勉強の休み時間にでも食べて。」
授業終わりにこっそりくれたチョコレート。
俺が食べた事ないような高そうなやつ。
俺ん家、貧乏だから公立しか無理って言われてるし、
中学の制服も近所の兄ちゃんのお下がりだし、アパートだし。
貧乏は嫌だ。
ただそれだけで、何をしていいかわからなくてがむしゃらに勉強してきた。
私立の合格はもらえたけれど、通わせてもらえないから嬉しくもない。
あと少し、高校生になったらバイトだってできるし、奨学金借りて大学行けば貧乏な暮らしじゃなくなるよな?
君がくれたチョコレートだって、自分で買えるようになるよ。
さぁ、詰め込んだ知識の放出だ。
「はじめ」
の声と同時にカリカリと皆がペンを走らせる音がする。
俺も負けじとペンを走らせる。
残り15分。
見直しの時間だ。
途端に不安が押し寄せる。この紙切れに俺の人生がかかっているんだ。
勉強していた時、金持ちの家の奴を羨んだ時、家が貧乏で悲しかった時。君がくれた見た事ないような綺麗なチョコレートを貰った時。
フラッシュバックみたいな走馬灯みたいな記憶と焦燥感で吐きそうになる。腹も痛くなる。
お願いだから。
頼むから。
時間よ止まれ。

2/15/2025, 4:45:01 AM

ありがとう

私は吸血鬼です。吸血症という病気の方が近いです。
血液が必要でした。
血液は、私に活力と健康を与えてくれました。
血液を飲まないと老化し、元気を失います。
私はもう、血液を飲まないと決めたのです。

先祖代々、吸血家系でしたが八重歯が尖っているような事はなく、人様に噛み付いても血は飲めません。
人に吸血症を伝染させたりできませんし、日光にあたって灰になる事もありません。

それと、漫画で描かれるような美男美女は家系におりませんでした。
皆、普通に結婚し、性行為で子供を授かっておりました。
人間の夫や妻になる人もいました。

昨今の晩婚化、シングル問題について、私も結婚出来なかった1人です。
子供もおりません。

このまま枯れて朽ち果てるのを待つのです。

今まで私に血液を与えてくれていたペットが亡くなりました。もう、私も虹の橋を渡りたいのです。

もう少しでまた愛するペットに会えます。
生きていた頃に痛い思いをさせた事を謝り、出会えた事にありがとうを伝えます。

8/3/2024, 1:12:17 PM

目が覚めるまでに

我が子が寝たらハッピータイム

なんて事はない。

食器洗いに洗濯(朝できるかわからないから)

ついでに、夫の夜ご飯と片付け

乱れまくった部屋の片付けと、適当にしかできてないゴミの分別。

使ったお金の管理、予定の支出の管理

そんなしてたら一度目の夜泣き発生。

まだ二時間経ってないやーんって思いつつ、オムツや汗のチェック。必要なら授乳やミルク。

まだ12:00前なら、明日の朝ごはん、夫のお弁当、食材あれば夜ご飯の下準備。

だいたい、火をかけたタイミングで二度目の夜泣き。

はぁ〜〜〜〜って思っても行かねばなるまい。

火を消す事だけは忘れずに。

そうこうしてたら私も寝てて、なんどか授乳で起きた気がするけれど、記憶にはない。

明け方に、眠ってる子を起こさないようにそっと部屋を出てキッチンへ。

昨夜と寸分変わらず途中の料理。

追加で、夫が食べたであろうアイスクリームのゴミがシンクに置かれてる。

ジャーっとアイスクリームの容器を流し始めた途端に起き出す我が子。

夫に殺意。

子供の目が覚める前に家事を増やす事は重罪である。

Next