あなたは誰
「あら、こんにちは。いらっしゃい」
そう言ってズズズと音を立てながら椅子に促されて座る。
「今日は雨が激しいのにわざわざありがとうございます」
そう言って老婆もベッドに腰掛ける。
「いかがなさいました?」
そう言って不思議そうに僕の顔をまじまじ見る老婆は、『あなたは誰?』と言わんばかり。
僕は「近くに居たので雨宿りがてら寄らせてもらいました。」
そう言ってにっこり笑う。
「そうでしたか。あぁ、そう言えばコレ、コレどうぞ。大したものでなくてごめんなさいね。」
そう言いながら、枕元にある戸棚から出して渡されたチョコボール。
クチバシの付いたチョコレート豆菓子。
「どうもすみません」
涙が出そうなのを堪えて喉が熱くなる。
「いえいえ、あなた、私の夫にも息子にもよく似ているものですから、ついね。同じ物が好きなんじゃないかって。」
老婆…私の母は私が幼い日の家族写真に目をやる。
「ほんと、よく似てるんです。ごめんなさいね」
ニコニコと愛想笑いの母に。
「いえ、とても嬉しいです。」
そう言うのが精一杯のぼく。
大学で上京してから、まともに帰らなくてごめん。
施設に入れっぱなしでごめん。
もっと一緒に過ごしたかった。
忘れられたくなんてなかったよ。
2/19/2025, 1:25:59 PM