中学校に入学してから日記をつけることにした。
いつも三日坊主。
私なんてそんなもん。
飽き性だし、あとで癖も治らない。
だから、小学校の夏休みの宿題は夏休み終わってもまだやってるような性格。
だから、夏休みが終わりに近づいた今、宿題も終わり、日記も続いている奇跡に自分でびっくり。
夏休みまでの日記には、新しい友達の名前や話した内容。宿題や先生のことが多かった。
夏休みに入って、毎年悩まされる読書感想文を先におわらせようと近所の図書館に行った日から内容は、違うクラスのかっこいい男子についてばかり書いてある。
学年で一番カッコイイと女子の間で入学初日から話題の的となっていた子で、明るい性格とハーフらしい名前と見た目で専ら王子様。
その子がいた。何の本を手に取った。どんな服だった。
何を飲んだ。何を食べた。何時に帰った。
内容はストーカー気味。
相手は違うクラスの私の事なんか知らないわけで、話した事もないから仕方あるまい。
夏休みの間にひょっとしたら話せるかもしれないと淡い期待してオシャレして毎日通った図書館のおかげで、宿題も早く片付いた。
毎日通った私。たまに来るあの子。
宿題終わったのかな?
私は終わった宿題を全部持っておしゃれして図書館に通う。
あの子が終わってなかったら、話すキッカケになるかもしれないから。
中学生になったばかり。
あの子と仲良くなって、もっとあの子の事知って、三年間、日記書き続けられたらいいな。
って。やっぱり私の日記帳はストーカー気味のキモいブラック歴史になる事、間違いないだろう。だから誰にも見せられない日記帳。
みんながそうかは知らないけれど、我が家の食卓テーブルには決まった席がある。
キッチンから近い席にお母さん。
その隣が弟。
弟の向かえがお父さん。
お父さんの隣でお母さんの向かえが私。
4人家族。
弟が生まれる前は、私が弟の席だった。
お母さんはみんなのご飯のおかわりを取りに行ったりして食事時もゆっくり座ってない。
私の結婚が決まって、花嫁修行として料理をするようになった。
今まで手伝ってこなかった事を後悔しつつ料理のイロハを教えてくれたお母さん。
今時、専業主婦だなんてもったいないとか思っていたけど、お母さんの料理は実に手が込んでいて、出汁の取り方、魚の捌き方を教わった時はプロかと思うほど、手際よくテキパキとこなす姿がカッコイイと思った。
私は専業主婦になるつもりもないし、共働きで家事は折半する予定だけど、なんでも出来るに越した事はないと、教えてもらって、初めて1人でメニューを決めて、買い出しをして調理した。
「ご飯できたよー」
って声をかけた時、私の席にお母さんが座ってニコニコしている。
私の声かけに、リビングからノソノソやってくるお父さん。ゲームに夢中でなかなか来ない弟。
そうか。お母さんはいつもこうやって見ていたのね。
温かいうちに食べてほしい。
遅れてやってきた弟と、いただきますをして、みんなで食べ始める。
ご飯、味噌汁、焼き魚、肉じゃが。あと、買ってきたお漬物。
たったコレだけっていいたくなるメニューながら、作り手からしたらなかなか手間がかかった。
お母さんなら『簡単メニュー』って言うやつ。
お母さんの席でみんなの様子を伺う。美味しいかな?どうかな?
お父さんと弟はテレビを見ながら、のんびり食べる。
途中、お父さんが「お茶」と、お母さんの席にいる私に空のコップを出す。
弟は、「肉じゃが肉多め」って言って、また、お母さんの席にいる私に空のお皿を出す。
ナンダコレ。私、家政婦じゃない。
動けずにお母さんを見ると、『ね?』とアイコンタクトして私の代わりにお茶とお代わりを取りに行った。
私は毎日、何を見ていたんだろう。
毎日、お母さんはコレをしていたなんて信じられない。
凄い。
私には無理だ。
とてもやってらんない。
ムカツク。
しかしながら、私が、料理をするまではお父さんや弟のように振る舞っていたんだ。
とても申し訳ない気持ちになった。
毎日、家族仲良く食卓を囲んでいる。
そう思っていた。
それができていたのは、迎え合わせに座っているお母さんの忍耐と我慢の賜物で、自分がその立場になるまで気がつけなかったことが恥ずかしいし、当たり前だ。そんなの簡単だと思っていた自分のバカさに申し訳なく思う。
暑くないのに、汗が吹き出す。
体は怠くて仕方ない。
熱もない。
コレが多分、更年期。
私もそんな歳か…。
反抗期真っ盛りの思春期が家にいる。
お互い、理不尽な八つ当たりをし合っている。
家の中の空気が悪くなる。
割と仲の良い家族だと思う。
だから、夫はまたかって感じで傍観しつつ、そっと子供に寄り添ってくれたり、私が怠さを訴えれば家事を代わってくれる。
子供も悪かったなと思うのか、たまに洗濯物を畳んでおいてくれたり、洗い物をしといてくれたりもする。
なのに私は…ってやるせない気持ちになる。
まさか自分の感情や体がこんなに思い通りにならなくなるなんて。
そんな自分が情けなくて涙がでる。
おばちゃんの涙なんて、なんの価値があろうか。
本当に、もう、やるせない気持ちでいっぱい。
不法投棄です。
海を汚しています。
私は私自身の体から流れる血を海に捨てています。
急激な怒り。衝動。
そこら辺に落ちてた流木の枝で太ももをブッ刺した。
私は太っているかもしれない。
だって、陸上で夏まで走りまくってたもん。
夏の甲子園ばかり有名だけど、陸上だって大会があって、負けたら卒部。
本当は球技がやりたかったけど、陸上部に入って、短距離の担当になった。
一年生の頃は、全然ダメで、部活の友達とワイワイするのが楽しくて続けたような感じ。
二年生になって、コーチとか指導の先生が褒めてくれるようになったら、メキメキ早くなってそれが嬉しくて朝練も辛くなかった。
0.00秒の戦いに楽しさを感じた。
ただ、ショートカットで日焼けして、足は男子より太い。それが少し恥ずかしくて、好きな男の子がいたけど、告白する事もなく降られた。その子には色白で華奢な彼女ができたから。
それからは部活!走る!早く!
と、自分を鼓舞して部活中心の生活。
お父さんは呆れて、お母さんは成績の心配。
私には今しかない!とばかりに親のお小言なんて無視して部活にのめり込んだ。
遅くまで練習したくて塾もやめた。
大学はスポーツで行くから!と親を説得して高校三生。
春に一年生が入ってきた。
その中に明らかに早く走る子がいた。
同じ短距離で。
聞けば、中学ですでに全国で戦っていたらしい。
後輩だけど先輩みたいな、妙な感じ。
先輩として、負けてなるものかと、走る走る走る。
先生や親の言うことなんて聞いていられない。
私には早く走るしかないから。
夏の大会を前にあろう事か肉離れ。
全治4週間。
大会に出なきゃ成績もない。
スポーツ推薦以外考えてなかった。
もう、私より早く走る一年生が、インターハイに出るのはわかってる。
先生は怪我が治ってからまた陸上すれば良いなんて言うけど、私は今しかなかった。
もう、人生終わったと思う。
だから、いっそ諦めて、足が無ければいいと思う。
だから海に私の血を不法投棄。
携帯も沖に向かって投げ捨てたから不法投棄。
私も自分自身を海へ投げ捨てちゃえば良かったなって思うけど、太ももに木の刺さった女子高生がウロウロ歩いても変だし。
波打ち際に座って、私の血が海へ流れるのを眺めていよう。
勉強できる子が赤点で。
寡黙な子がおしゃべりで。
男の人が子供を産んで。
女の人が大黒柱。
赤信号が進んで良くて。
青信号が止まれ。
笑ってる人がいたら慰めて。
泣いてる人がいたら喜ぶ。
好きな人に嫌いって言って。
嫌いな人に好きって言う。
ブサイクは美人に。
美人はブサイクに。
子供が大人になって。
大人が子供になる。
魚が空を飛んで。
鳥が海を泳ぐ。
1日だけ、24時間だけ。裏返しの世の中になってみたい。
私はどんな人になるんだろう?