人間って、大変。
ってか、人間として生きてきたから他の生き物の事知らんけど。
生まれてしばらくは、誰かの世話にならないとすぐ死ぬ状態。
それから、言語やマナーを学ぶ。
トイレの仕方、箸の持ちかたとか。
社会に出たら、幼稚園でさえ裕福とか貧乏とかある。
小学校に上がったら成績や運動能力。
中学ではそれが顕著になる。
義務教育が終わって、当たり前みたいに高校に行けば、偏差値とか、働くか大学行くか選択しなくちゃならない。
大学に行けば、誘惑に打ち勝つ精神力が無けりゃいい就職なんてできないか、もしくはめっちゃ運良く早々内定貰うかで。
就職したらしたで次は結婚するかしないか。
古い考えの人の顔色伺う必要も出てくる。
結婚してもしなくても苦労。
子供を産んでも産まなくても苦労。
老後なんて、今まで頑張ってきたって、世の中何があるかわかんない。
鳥みたいに、ポコっと卵で産んで、ビービー泣いて、ご飯を親から貰えなくなったら自分で取りに行って。
親、いらんわ。ってなって巣立って、番ができたり出来なかったりして死んでいく。
時間の長さ違うだけで、人間と大して変わらんやん。
鳥だって、モテるモテないあるだろうし。
鳥には鳥の苦労があるだろうし。
エアコンのあるとこに居るのは籠に入ってる鳥しかおらんやろし。
人間と、鳥、比べたって意味ないけれど、
賢い鳥。って言われない鳥って、3歩歩いたら忘れるっていうくらいだから、悩みはなさそう。
私は、人間辞めて3歩歩いたら忘れる系の鳥のような人生を送りたい。
②
私も大きくなった。周りのみんなも大きくなった。
そろそろ頃合いだ。
と、思っていると見慣れた人間が、突いてもビクともしない分厚い服と靴でやってきた。
手には何やら長い物。
いつもと違う様子に仲間は戸惑ってバタバタしている。
一羽の仲間が捕まって、すぐさまスパンと首を落とされた。
体だけがバタバタと猛ダッシュしている。
それ見た仲間が更にバタバタと逃げようとした。
しかし、所詮檻の中。
腹を括ったらしき仲間達が自分の最期を悟り大人しく列になる。
私も列に並ぶ。
次々と首を落とされる仲間達。
自分達はこの日のために成長させられたんだから、逃げようとしても叶わない。
せめて、苦しくないように。
死んだと気が付かなかったかのように首から上のなくなった仲間が走って、力尽き死んでいく。
なかなか殺しの上手い人間だ。
もうすぐ私の番って時に、一際、成長の良かった丸々太った奴が殺された。
それが満足だったのか数が揃ったのかわからないけれど、人間は、死んだ仲間を拾っていなくなった。
次は自分の番かもしれない。
明日かもしれない。
数も数えないは本当。私達には意味がないから。
言葉もわからない。それも本当。
だって、私達に必要なのは言葉じゃないから。
人間の為に生まれて死ぬ。
だからって感情がないとは思わないで欲しい。
ちゃんと育ててくれた人間に愛と感謝がある。
人間も感謝を込めて育てて殺してくれる。
いつも突然やってきて、スパンと首を落とす。
私はあの人間のやる事は出来ないし、したくない。
それをやる人間はさぞ大変だろう。
私は鳥だ。
だから鳥の生を全うする。
他の鳥のように、一度でいいから空を飛んでみたかったとは思う。
早々と大学が決まった。
念願の志望校に合格決まった時は泣くほど嬉しかった。
新生活も楽しみ。
生まれて初めての一人暮らしも楽しみ。
都会へ行くのは不安半分楽しみ半分。
合格が決まるまでは明るい未来ばかりに目がいっていたけれど、決まって落ち着いたら色々なものと別れる事に気がついた。
両親。とは別れじゃないけど、もう朝起こされたり小さなお小言もいわれなくなる。
慣れ親しんだご近所さん。朝、いつも挨拶するおばあちゃんにも会わなくなる。
友達とも、今みたいに毎日会えるわけじゃない。
彼氏とは遠距離の予定だった。
よくよく考えてみると、会いたい時に会えないで縛りつけ合うだけの関係は、若者としていかがなものか?
縁が続いていつか結婚したとして、他の誰とも付き合わずに結婚したら後悔しないだろうか。
だから、最近別れようと切り出すタイミングを探している。
別に嫌いなわけじゃないし、好きが大きいから会うとなかなか言い出せない。
だからと言って、高校生活の大半を彼氏彼女として過ごしてきたのに、LINEや電話で別れるのも違う気がする。
彼からは、「離れても会いに行くから」とか言われちゃって、嬉しいやら切ないやらモヤモヤ。
人より早く決まった大学合格。
さよならを言う前に、たくさんの人とさよならする覚悟をしなければならないなぁ。
②
死のうと決めた。
今から死のう。
刃物や薬や死ぬ方法のイロハは調べ尽くした。
飛ぶ鳥跡を濁さず。
部屋を片付ける。
整理する。
やりだすと止まらない片付け。
いっそ、居なかった事にしたいと、手当たり次第にゴミ袋に突っ込んでいく。
部屋の隅にゴミ袋が積まれていく。
死ぬって決めて、どうでもいいはずなのに、資源ごみとキチンと分けたりしちゃう。
燃えるゴミ、燃えないゴミ…
家具の中は空っぽになった。
凄く汗をかいたからシャワーを浴びる。
シャンプーリンスを捨てたから、水浴びみたい。
汗臭い服で体を拭いて、燃えるゴミに突っ込んだ洗濯済みの服に着替える。
さぁ!死ぬぞって思った頃、朝日が登った。
今日は燃えないゴミの日で、今日を逃すと二週間は捨てられない。
燃えないゴミを捨ててから死のう。
ゴミ出しを終えていざ!
ちょっと待って。
親族とかが死んだ私の部屋に来るかもしれない。
メモをしよう。
死んだと報告してほしい人リストを作る。
そのためにゴミ袋から鉛筆やらメモやらを取り出す。
私は一体何をしているんだ。
メモをぐちゃぐちゃに丸めてまたゴミ袋に突っ込む。
さて、何もない部屋でどう死のう。
困った。
勢いで刃物は捨てた。
薬もゴミ袋の中。
紐…紐で首を!
山のようなゴミ袋から紐になりそうな物…
いや、面倒だ。
紐、コンビニで買おう。
一番上のゴミ袋に突っ込んだ財布を取り出して、外に出る。
最後の晩餐だ!とばかりに大好きなご飯屋さんでお昼ご飯を食べよう。
ご飯を食べていると、私、何してるんだろう?
と馬鹿馬鹿しくなった。
死のうと決めてから、全然死ぬ気になれてない。
さよならって言える人でもいたら違うのかも。
仕事を辞めてお金がなくなり、親にも頼れず友達もいない。
私が生きていようが、死のうが、誰も何も思わない。
せめて『さよなら』が言える人。
死ぬ前に『さよなら』って誰かに知らせたい。
自己顕示欲?
今、この世にさよならを言う前に、誰か私のさよならを聞いてくれませんか?
台風が近づいてきたり、ただの雨だったり、急な豪雨でも、頭が割れるような痛みがでる。
だから、夏から秋にかけては最悪。
冬の低気圧も、急な気温差でもこの頭痛はやってくる。
春になる前の三寒四温なんて最悪に痛む。
春が落ち着く頃には梅雨が始まる。
小さい頃からこの頭痛に悩まされてきた。
小さい頃は、地球温暖化が進んだら砂漠になって雨が降らなくなるって思っていたのに、温暖化、異常気象、Uターン台風なんて厄介なのが増えるばかり。
頭痛がしたら、痛み止めの薬を飲む。
でも、小さい頃から飲んでるせいか最近、薬の効き目も良くない。
テレビで天気痛って呼ばれて紹介されて認知されてきたけれど、だからと言って対処法は役に立たない。
手足を温めるといい。なんて言われても、職場は私1人じゃないし。靴下履いてネックウォーマーしてなんてできる職場じゃない。
天気痛持ちだからって簡単に転職できるわけじゃない。
この頭痛、どうしたもんかと様々な天気予報見ながら自分でどうにかするしかない。
職場の休み時間、ランチに出ようと会社の受付を通ると、キーンと頭の中で音が鳴り、目眩のようなグラグラする視界、吐き気と同時にグリグリと頭を踏まれたような痛み。コレは急な豪雨の痛み。
あと数分もしないうちに雨が降り出すだろう。
急いで昼ごはんなんて無理。痛いし気持ち悪いし立ったいるのもしんどい。
玄関の壁に寄りかかって、お昼を諦め痛みがおさまるのを待つ。
スーっと、役員用の車が玄関前に止まる。
横目に見ながら、重役の誰かが昼の会合か何かだろうな。
しばらくして、おじいちゃんと言える年配の男性が玄関から出てきて、その車に乗り込むのが見えた。
心の中で『もうすぐ豪雨ですよー』なんて呟く。
ふと視線を感じて、目を上げると目の前に重役らしきおじいちゃん。と、秘書?
「どうしたの?」と、不思議そうに声をかけてくれるおじいちゃん。
「天気痛で少し体調が良くなくて、休ませて頂いてます」
「今は昼休みだから休む時間だよ。今、すごく晴れてるのにどうして痛むの?」
「私は雨が降る少し前に痛み始めるので…」
「そうなんだね。じゃあもう少ししたら雨かねぇ」
「はぁ。多分ですが…」
「そうか。ありがとう。お大事にね」
そう言って、ゆったりした足取りで車に乗り込んで、音もなく出発した車を頭を下げながら見送る。
空を見上げると晴れ。ところどころに雲がある程度。
都会の空を見上げたって、一部しか見えないけれど。
痛みはどんどん増して、ポケットに痛み止めを入れていなかった事を後悔する。
もう、立っていられなくて座り込む。
早々にランチを切り上げた人たちが玄関を通るときに不審な目を向けられる。
あぁ、もう頭を誰かかち割ってくれと思うほど痛みが激しくなった頃、ドーンと大きな雷の音と同時にバケツをひっくり返したような雨。
あぁ、やっぱり。
次の日。
昨日の雨は1時間もしないで止んだ。
しかし、最近豪雨が増えて、地盤の緩んだ地域ではそれなりに被害が出たとニュースで知った。
今日も降るかもしれないとポケットに痛み止めを入れてデスクワークに励む。
もうすぐお昼、という頃に、昨日のおじいちゃん。
いや、重役。
「いやー。昨日本当に雨が降ったね。凄いね。」と、まるで友達に話するように声をかけられてびっくり。
「はぁ…」としか言えない。
「それでね、明後日、ゴルフなんだけど雨降る?予報が50%で当てにできなくて、君を思い出して聞きにきたの」と。
「…申し訳ないのですが、私ではなんともわかりかねます…」
「?でも、君は昨日ピタリと天気当てたじゃない。昨日は晴れの予報だったのに。」
「………昨日は偶然と言いますか…」
「天気痛って言ってたから、テレビの予報より当たるんじゃないかと思ったんだがねぇ」
私も天気予報より自分の頭痛の方が確率よく当たる。
当たるだけで占いみたいなもん。
私がいるところより少しばかりズレて集中豪雨なんてこともザラにある。
「残念ですが、その件に関してお役に立てず申し訳ございません。」って言うしかない。
「いいの。いいの。でも凄く辛そうだったから、天気痛のある人が休める場所あった方がいいね。僕たちもそこに人がたくさんいたら雨の前触れってわかるしね。休憩室みたいな何か考えてみようかね」
!!!神!!!
「ありがとうございます!あると大変助かります。」
「そうか。そう言った福利厚生あったら面白いしね。期待しないで待ってみて。」
おじいちゃんはノロノロとオフィスをでる。
アレは一体誰?
と、思っていたら、部長が「知り合いなの?」と聞きにきた。昨日の経緯を簡単に説明する。
「あの人、営業部長から上がった役員だから人と会う事多いからかなぁ」
って。なるほど。役員さんは間違いなかった。重役の年齢だと思ってごめん。
でも、天気痛とかPMSとか医者にかかるほどじゃない程度の休める場所があれば、痛みが引いたら仕事戻れるし、帰らないでいいからありがたいなぁ
って、オフィスの小さな窓から空模様を伺いかながら我が社の福利厚生に期待する。
ジーっくり鏡を見る事なんてない。
着飾るのは仕事の時だけ。
見た目はお金のため。
自分がどう見られるかなんて知らない。
お金になるからその服着るだけ。
そんな私が結婚して、子供を産んだ。
なんて綺麗なお母さん!
ってお世辞かどうかわからない言葉が懐かしいと思う頃。
子供と風呂上がりに自分の真っ裸を見た。
誰だこの妖怪…
『昔は細身でモテたのよ〜』
なんて義母の言葉が聞こえた気がした。
ヤバい。
鏡に顔を近づけてみる。
うっすらとシワ、シミ、タルミの三原則。
ヤバい。
やっとけばよかったオシャレ。
私には関係ないとばかりに無視した美容法。
今ならまだ間に合う?
手遅れ?
よくわからないけれど、手荒れ予防に使ってるニベアのハンドクリームを顔に塗る。
暇ができたら若返りだとか美容だとか頑張ろう。
子供と遊ぶ以外に体も引き締めて…
無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理
「可愛いね」「お利口さんね」「自慢の子ね」
ずっとそう言われて育った。
中学受験の時は、親も必死。私も訳もわからず必死。
ちょっと成績が悪かったら、
「どうして?」「なんで?」「頑張りなさい」
って言われたけれど、どうやったら成績が上がるのかわからない。私なりに十分頑張ってる。
成績の下降が続いたらついに親が私に手をあげた。
殴る。蹴る。
怖いし痛い。
小学六年生の楽しい記憶はない。
第一志望とはいかなかったけれど、親からオチコボレと言われない中学に入学できた。
中高の一貫校で、とりあえず一安心。
なんて思っていたら、親の監視は酷くなる一方だった。
リビングに監視カメラ。
携帯、パソコンの利用制限は常軌を逸したものになり、友達関係も上手くいかなかった。
だんだんと学校に行きたくなくなる。
でも、家にいるのはもっと嫌。
親に内緒で買ったSIMフリーの携帯は瞬時に見破られた。
楽しいと思えない毎日がすぎて、高校三年生。
親から逃げたい一心で県外の大学に行きたいけれど、やる気なく通った学校で、成績も芳しくない。
しかしながら、大学で家を出ること。
これが叶えば、今より楽になれる気がする。
だから、遅れながらも今、必死に勉強する。
親が、『いいよ』って言ってくれる大学に入るため。
親が学費も生活費もくれなくていい。
高卒で働いてもいい。
でも、親は許してくれないだろうから。
私が死ぬまで捨てられないのは血縁かもしれない。それでも離れることはできるよね?
可哀想な人だけど、私を産んでくれた人だから仕方ない。
産んでくれとも頼んでないけど、産まれた私がこんなのだとわかっていたら返品したかっただろう、可哀想な親。
これから先の未来は変えられるけど、いつまでも捨てられないのは親子の思い出かもしれない。