Machi

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1/22/2025, 7:59:10 AM

【羅針盤】


時はルネサンス期。そして、大航海時代。
新大陸開拓に心惹かれた幾人もの海賊達が、揃って船を泳がせた。
そんな船が、ここにも一隻。
「起きろー!!朝日が昇るぞ!!!」
見張り役の一人がそう言うと、すぐに船員がバタバタと活動を始める。
朝日がゆっくりと昇る。
「キャプテン!今日はどの方角に進みましょうか!」
キャプテンと呼ばれた男はどこか少年みのある瞳を煌めかせながら、凛とした響く声で船員全員に告げる。
今日の未知を探る方角を。
「今日は東南だ!!お前達、気分上げていけ!!」
どこまでも続く果てしない海。深く、未知で、発見と自由を与えてくれる海。
その上で今日も、人々は未来を見る。
「「アイアイキャプテン!!」」
何人もの船員がそう返事をし、これから出会える全てのものへの期待に胸を膨らませながら進路を変えた。
キャプテンと呼ばれた男はそれを満足気に見てから、船長室に戻る。
物々しく置かれた羅針盤を見つめる。羅針盤は船長室のど真ん中に設置されていた。
それは、人類が叡智を求めるために作られた道標。
羅針盤から、窓の外に目を移す。
空と波の交錯する美しい世界を眩しげに見て、希望を笑う様に口角を上げた。
「…今日も俺は、進み続けるぞ」

1/6/2025, 10:51:51 AM

【君と一緒に】


星を見た。
その日は流星群で、どうしても見たかったから。
俺はこっそり学校に侵入して、警備員が来ないよう細心の注意を払って教室に辿り着いた。
涼しい夜なのにも関わらず、緊張で汗が滲むシャツが鬱陶しかったのを覚えてる。
この扉を開ければ、俺だけの世界だ。
歓喜に震えながら俺は、ドアノブに手をかける。
ずっと、息苦しかったんだ。窮屈で息が詰まりそうな苦しみに囚われながら俺は、平然としたふりをし続けていた。
扉を横に開けた。普段と変わらないはずのその動作でさえ、俺を特別にする。
床に落ちた匂い。壁に張り付いた空気。
それらを感じて初めて、この世に俺の世界なんてなかったんだと知った。
「…天崎くん?」
透き通った声が、俺の名を呼ぶ。
「あ……天野?何でこんなところにいるんだよ」
先客がいるなんて聞いていない。変な汗が背を伝う。
「私は…この時間はいつもいるよ。天崎くんこそ何でこんな時間に学校来たの?」
天野はいつもクラスの人気者。勉強も運動も申し分ない、成績優秀な学級委員程度の印象しかない。対して俺は全てにおいて平々凡々。特筆すべき事項はない。
俺と天野に特別な関係なんてなかったし、これからもないはずだった。
「…俺は……」
言葉が喉の奥に支えて出てこなかった。
何で天野はここに居る?俺と同じ目的か?いや違う。いつも居るなら、そんなわけがない。俺を理解できるはずがない。
「別に…無理に言わなくてもいいよ。…私は疲れを取るためにここに居る。…いつも、疲れてるから」
自分の心音がよく聞こえた。速くて大きい、動悸を隠しきれていない俺の心臓。
気付いていた。天野の、ふとした瞬間に見せる疲労と焦燥感を帯びた感情に。完璧に疲れた表情に。
多分、俺だけが。
「俺は…どうしても、見たかったんだ」
口が勝手に動いた。天野は座っていた椅子から立ち上がり、俺の同じ目線に立つ。
いつものような、貼り付けた笑顔はない。
「この景色が、見たかった」
暗い夜空を、星が駆ける。風が吹き、カーテンが揺れる。
俺がいつも息苦しい世界と、天野が疲れ切った世界と変わらない構図の、全く違う世界。
天野は、心の底から安心しきったように笑った。

12/27/2024, 6:28:07 AM

【変わらないものはない】

変わらないものはないと言っていた君は、ある日突然魂を捨てた。
何でだよとは言えなかった。君が普段から言っていたことだから。
でも、それでも願ってしまう。
変わらないものだってあったはずだと。
君は絶対に否定するだろうけど、僕は信じ続ける。
僕の君への思いは、この先もずっと変わらないままだと。

12/26/2024, 9:58:33 AM

【クリスマスの過ごし方】


〈クリスマスだし、一緒に過ごさない?〉
〈空いてる?買い物どう?〉
〈遊ぼうよ〜〉
〈聖夜はやっぱり俺と過ごすべきじゃない?〉
昨日、沢山の人から来ていた誘いのLINE。
横目に見て下にスクロールしていきながら、琥珀色のカクテルを呷った。
「沢山お誘いがきていたんですね」
「まあね」
所謂ところのバーのマスターが、追加のカクテルを注ぎながら言う。
「良かったんですか?もう日付が変わりましたよ」
私とマスターだけの、静かなバー。
私はカウンターに体を預ける。時折体を少し起こして、もう何杯目か分からない酒を体に注ぐ。
「…なんか……疲れたんだよね。男と会うの。」
職業柄、男の相手をすることは多い。だが最近は億劫になってしまった。
「バーのマスターに性別はありませんか?」
「マスターって性別でしょ。」
気取ったジャズがゆっくりと頭に響く。マスターの声だけが私の脳内にはっきりと聞こえる。
「そうですか。」
12月26日の1:30を指す小洒落た時計を横目に、ふと違和感を覚えた。
「…今日は閉めないの?」
バーにしては珍しく、1:00にはClothの看板がドアの前にかかる店だ。いつも延長してよ〜と強請っているから、間違えるはずはない。
「もう閉まっていますよ。」
「…」
グラスを、まるで人でも扱うかのように丁寧な手つきで拭きながらマスターは言う。
軽く体を傾けて、もうずっと歪みっぱなしの視界の中ドアの向こうを見る。微かにclothの看板が見えた。
「私はお客じゃないの?」
「お客様を一人残して店を閉めるのは、貸し切りという意味ですよ。」
マスターの顔がよく見えない。流石に飲みすぎたと思うが、後悔はない。
「…マスター」
「はい。」
いつもの掛け合い。私が呼んで、マスターが答える。
「私とクリスマスを過ごしてくれてありがとう」
今日初めて、ようやくマスターの顔が見えた気がした。
「…貴方が良ければ来年も一緒に過ごしますよ。」

11/14/2024, 12:04:36 AM

『また会いましょう』



「また会いましょう」
いつか私にそう言っていた貴方と会うことは、二度となかった。
一度も、会いに来てはくれなかった。
その言葉は今も私の体に絡まり、重い鎖として未来を妨げている。
たった一度の出会い。たった半日一緒にいただけ。
それなのに貴方は、私の人生を揺るがした。
もし私に願うことが、祈ることが許されるのなら。
私の祈りは一つだけだ。

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