Machi

Open App

【クリスマスの過ごし方】


〈クリスマスだし、一緒に過ごさない?〉
〈空いてる?買い物どう?〉
〈遊ぼうよ〜〉
〈聖夜はやっぱり俺と過ごすべきじゃない?〉
昨日、沢山の人から来ていた誘いのLINE。
横目に見て下にスクロールしていきながら、琥珀色のカクテルを呷った。
「沢山お誘いがきていたんですね」
「まあね」
所謂ところのバーのマスターが、追加のカクテルを注ぎながら言う。
「良かったんですか?もう日付が変わりましたよ」
私とマスターだけの、静かなバー。
私はカウンターに体を預ける。時折体を少し起こして、もう何杯目か分からない酒を体に注ぐ。
「…なんか……疲れたんだよね。男と会うの。」
職業柄、男の相手をすることは多い。だが最近は億劫になってしまった。
「バーのマスターに性別はありませんか?」
「マスターって性別でしょ。」
気取ったジャズがゆっくりと頭に響く。マスターの声だけが私の脳内にはっきりと聞こえる。
「そうですか。」
12月26日の1:30を指す小洒落た時計を横目に、ふと違和感を覚えた。
「…今日は閉めないの?」
バーにしては珍しく、1:00にはClothの看板がドアの前にかかる店だ。いつも延長してよ〜と強請っているから、間違えるはずはない。
「もう閉まっていますよ。」
「…」
グラスを、まるで人でも扱うかのように丁寧な手つきで拭きながらマスターは言う。
軽く体を傾けて、もうずっと歪みっぱなしの視界の中ドアの向こうを見る。微かにclothの看板が見えた。
「私はお客じゃないの?」
「お客様を一人残して店を閉めるのは、貸し切りという意味ですよ。」
マスターの顔がよく見えない。流石に飲みすぎたと思うが、後悔はない。
「…マスター」
「はい。」
いつもの掛け合い。私が呼んで、マスターが答える。
「私とクリスマスを過ごしてくれてありがとう」
今日初めて、ようやくマスターの顔が見えた気がした。
「…貴方が良ければ来年も一緒に過ごしますよ。」

12/26/2024, 9:58:33 AM