「青い目なんですね。」
そう言われて振り返ると、彼女にまじまじと見つめられた。
「空のような青。水色っていうより、青空色ですね!」
ふんふん、と鼻息を荒くしても可愛いと思ってしまう俺は、そうとう首っ丈なんだと自覚する。
「俺の目が空なら、お前の目はなんだ?」
「……葉っぱ?」
「安直だな。」
ぷーっと口を膨らませる彼女が可愛くて可愛くて、ついニヤけてしまう顔を見られないよう、彼女の頭をがしがしと撫でて誤魔化す。
「もう!子供扱いしないでください!」
彼女の抗議も可愛い。なんでこんなに可愛い。
どこにも見せたくないと思うのは、俺の贔屓目なんだろうか。
——————
彼の目は綺麗だ。
でもふとした瞬間、ふと吸い込まれるような感覚になる。動けず、逃げられず、でも、居心地はいい。
そんな不思議な感覚に。
【青く深く】
「くるくるが暴れる季節になってきた。」
彼女は顔をしかめて鏡を睨んでいる。
「寝起きはいつでも大暴れだろ。」
「そっちは暴れないくらい短髪にできるけど、こっちはできないの!あぁ、もう直らない…!!」
スプレーとドライヤーを持ち替えながら櫛で整えようとするが、くるくるは手強いらしく悔しそうな金切り声が時折聞こえてくる。
「今日は休みなんだし、ほどほどにしてこっちこいよ。」
「えー!でかけないの!?」
「昼から雨だよ。ほら、貸してみろ。」
素直に渡された櫛で、彼女の髪を解かしていく。憎らしげに語られる髪だが、俺にとってはふわふわで愛おしく感じる髪だった。
髪に鼻を押し付け、彼女の香りを堪能するべく吸う。直前まで使っていたスプレーと彼女の香りが混ざってクラクラする。その行為に、彼女がぶるっと肩を振るわせた。
「ねぇ……髪フェチなの?」
「……お前の癖っ毛は好きだよ。」
くるくると踊る髪は、もうすぐ来る季節を告げていた。
【夏の気配】
「これはぬいといいます。」
「ぬい」
「こっちはお着替え用の服です」
「お着替え」
「ここをこうして…はい!どうですか!かわいいですか!!」
「うん、かわ、いい…?」
滅多に自分のことを話さない彼女から、部屋にお誘いをもらったのが数時間前。やっとお許しをもらったこと。何があっても内緒だよ、と囁く彼女にときめいた。
そして部屋から出してきたのは、可愛らしいぬいぐるみだったのだ。
「私、ぬい活してるの。」
「ぬい活」
「お着替えしたり、写真撮ったり!かわいいの!」
可愛いのはあなたです。
思わず言いかけて口を手で押さえる。
「だからね、一緒にぬい活…しない?」
「ぬい活…」
「海の写真撮りたいから、そっちの方に一緒に」
「行く!!絶対行く!!!!」
ぬい活の延長でもいい。彼女がぬいに心酔していてもいい。生身は俺だけなのだ。
「えへへ。たのしみ。」
この笑顔といられるなら、どんな活も一緒に楽しめる!
俺は彼女が好きだから!!
【まだ見ぬ世界へ!】
かひゅ、
言葉にもならない、音と表現するのが正しい声だった。
爆風を顔面に浴びてまだ思考できるのは、はたして幸せなのか、不幸なのか。
指一本、声ひとつ出せないこの状況はきっと不幸なのだろう。
人間という生き物は、死の間際に走馬灯を見る。それは過去に起こった出来事を片っ端から思い出して起死回生を図るためらしい。この状況からできる起死回生などあるのだろうか。
あぁ、こうも思い出すのは、君の声ばかりで。起死回生もあったもんじゃない。
その場を支配している爆音と爆風は、もうしなかった。
「かえりてぇ…」
情けないな、と思ってしまった。
【最後の声】
「あお。」
屋上で見上げながら、ふと呟いた。
なんのことやら、と君はこっちを見る。
「君には白が似合うと思う。」
「なんの話?」
白。しろ。シロ。ふと純白のウェディングドレスを思いついた僕はやましいんだと思う。
「また自分の世界に入る…」
やれやれと言わんばかりに君は僕の隣で漫画を読む。
「僕は青が似合うと思う。」
「はいはい。」
だってお揃いの色だから。
誰もが認める、セットの色。
「えへへ。」
「はいはい。」
君と見上げる空の色。
全てをきっと、受け入れてくれる。だって。
【空はこんなにも】