_私の当たり前_
また私は貴方との待ち合わせ場所で黙って待つだけ。
真夏のジメジメとした蒸暑い中、貴方を待つのはもうとっくの昔に慣れてる。
待ち合わせ時間から、もう三時間も経っていた。
なんで?なんでこないの?
寝坊したのかな?それとも、事故?
早く来てよ…。
あれからもう数ヶ月はたった。
いつになっても彼が来る様子はない。
私のことなんか、もうどうでも良くなったの?
また、いつもみたいに、笑顔でここに来てくれないの…?
そう諦めの感情を抱いたその時だった。
静かな夕方の道に、ゆっくりと歩いてくる音が聞こえてきた。
私は咄嗟に振り返ると、そこにはバケツと私の大好物の食べ物を入れたレジ袋を持った、彼の姿があった。
久しぶりの彼の姿が、凄く懐かしく愛おしい気持ちが溢れて、彼に駆け寄ろうとしたが、私は動きをピタッと止めた。
私の目の前に、彼が静かにおにぎりと水を置いた。
「…最近、来れなくてごめん。色々と忙しいんだ…。
これ、お前の好きなみかんといちごだよ。」
「…俺さ、なんか全然周りに馴染めなくってさぁ。仕事もミスしてばっかだし。」
彼の、優しくて落ち着いた声色が、何処か暗くて苦しい声になっていく。
「…なぁ、なんで俺を置いていった…?俺さ、まだまだお前とやりたいことあったんだけどな…w」
「、、、逢いたいな、、、。」
彼は、今にも泣き出しそうに搾り出す声で呟いた。
最後に彼は墓に水を沢山かけて、線香の火をつけ、
手と手を合わせて、目を瞑った。
その後は、また私を置いて、静かに去っていく
そんな彼の背中を、いつまでも見守っていた。
その背中を私は追いかけることができない。
会いたい、私もだよ。
また、いつでもここに来ていいからね。
私は、いつまでもここで貴方を待ってるから。
_星空_
なかなか眠れずにいた私は今日もこっそり抜け出して、周辺の、夜道を歩いていた。
上を見上げると、雲ひとつない、あたり一面に星が散らばっていた。私は思いっきり空を仰いだ。
毎日毎日、苦しい日々の繰り返し、もう、疲れてきちゃった。皆んなは私を頑張って生かしてくれるけど、正直、私はもうどーでも良くなってる。
ほっといてよって感じだな。…本当に。
ふと我に返って、少し急足で建物の中に入っていった。
暗い廊下を歩いていると、もう皆は寝ているみたいだ。
管理人さんにバレないように、静かに戸を開け
病室に入った私は、自分のベッドに横たわった。
窓からは、また、星が私を照らしていた。
明日も、頑張れって。
_ここではないどこか_
現在高校二年生の私は、隣町の高校に通っているため、
登下校はよく電車を使っていた。
電車に乗っている20分間は意外にも長く感じて、
私はその空き時間に良く本を読んでいた。
本を読んでいる時はあっという間に終点についていて
電車通学で欠かせないものは小説一択だけだった。
ある日、朝寝坊して急いで家を出て行ったところ、なんとか電車には間に合ったが肝心の小説をリュックの中に入れるのを忘れていた。
これじゃあ暇だよぉ…。スマホでも見る…?いや、私あんまりスマホ見ないタイプだった…。
暇で仕方なく、席に着いて、周りの人々の仕草を観察して楽しんでいた。
周りの大人達、高校生は皆スマホの画面を見つめている。私みたいに本を読んでいる人なんてそうそう居ないんだなぁ…
そう思っていた瞬間、私の目に入ったのは、同じ高校の制服の人。制服のネクタイからして先輩かな…?
なんと、その先輩も私と同じく本を読んでいた。
しかも同じ作家の…!
こんな人混みの中、じっくりと本を読んでいるその姿は、何だか私には愛らしく見えた。初めて会った人なのに、その人の事が気になってしかたなかった。
本も好きで、作家も一緒だなんて…ふふっ趣味が合うのかも
など、呑気なことを考えていたらあっという間に終点の場所。早く降りなきゃ。
…明日も会えるかな?
いつか話して見たいな。
月日が経ち、
三年生になり、受験シーズン。
猛勉強中で、本なんか読んでる暇はないため、いつもと同じようにこの時間帯だけ特別な時間だった。
あの時、彼、先輩に声を掛けなければ、今頃ずっと後悔していた。
そして私は何処かで期待の心を持っている。
また、この電車の中で、巡り会えるかもしれない。
また、話せるかもしれない。
ここじゃなくてもいい、ここではない何処かで、また。
彼とお話がしたい。
その為には、やっぱり彼と同じ大学に行かなきゃいけない。
たまたま私が勇気を出して声をかけたあの日、彼に聞いてみたら、彼も私と同じ所の大学希望だった。私は凄く嬉しかった。受かったら、そこに彼がいる。
彼は応援してくれた。受験生頑張れって。
彼は言ってくれた。次は俺から話しかけるねって。
待ってます。次、ここではない何処かで会える日、それまで
精一杯の実力を出して、大学受験、受かってみせます…!