【奇跡をもう一度】
君と恋に落ちたのは奇跡ってやつだ。
生まれも育ちも違う、年齢だって違う。
趣味も違うし、性格だって違う。
俺、正直言って君に恋するなんて思ってもみなかった。
そんな奇跡が起きるなんて、想像もできなかった。
だけど今は1秒ごとに君に恋している。
その深い瞳の色に魅入られ、指先の繊細さに恋焦がれている。
だから、奇跡をもう一度。
「俺と一緒に住まないか?」
【きっと明日も】
ご飯を食べて、お風呂入って、パジャマに着替えて、あとは寝るだけ。
なんにもしなくていい時間に、君のことをぼんやり考える。
カメラを向けられた途端に下手くそな作り笑いになるのに、本当はバタートーストみたいな素敵な笑顔を持ってる君。
キャスター付きのイスに座ろうとしただけでひっくり返るくらい運動苦手なのに、サッカーになったら目も覚めるようなロングキックを披露する君。
ジーンズの前後ろを間違えても気付かずにいるファッション音痴なのに、モデルさんみたいにスタイルが良い君。
不器用なのか、器用なのか。
不恰好なのか、カッコいいのか。
ぜんぜんわかんない君。
でもね、一つだけわかってる。
きっと明日も君のことを考えるんだ。
君のことを考える時間は甘くて苦い。
【静寂に包まれた部屋】
ふと真夜中に目が覚めた。
隣では君が眠っている。
お気に入りの抱き枕をギュッと抱きしめて。
──そりゃ抱き枕なんだから、抱いていていいんだけど、俺がいるのに?抱きしめて眠るのは俺じゃないんだ?
俺が枕にまで嫉妬するなんて、君は知らないだろう。
嫉妬深いんだよ、俺は。
枕を抱いた君を背後から抱きしめた。
部屋はしばしの静寂に包まれる。
「うれしい」
ポロッと君が囁いて、静寂は破られた。
【別れ際に】
雨が止んだ。
青空が窓から見え、雲の間から陽の光が差す。
「じゃあね」と立ちあがったおれに、君は「気をつけて帰れよ」と優しく答えた。
……おれは通り雨にかこつけ、雨宿りを口実にして君の家にやって来た。
君の久しぶりの休日を邪魔したのに、シャワーを貸してくれ、着替えを貸してくれ、オマケにわざわざビールまで買って来てくれた。
いつだって優しい君。
おれのこんがらかった話も辛抱強く聞いてくれる。
でもさ、それはおれだけじゃなくて、君は誰にでも優しいから。
おれは「気をつけてって、真昼間だぞ?」と笑った。
「おれは大丈夫」
自分に言い聞かせて、ヒラヒラ手を振った。
「──なあ、やっぱり帰るなよ」
別れ際、君がさっきまでの優しい顔じゃなく、不機嫌そうにおれの手を握る。
「帰るなよ」
誰にでも優しい君じゃなく、ワガママな君はおれだけのものだ。
【通り雨】
「急に降って来ちゃって」
休日の昼過ぎ、君はいきなりびしょ濡れでやって来た。
「雨宿りさせてくんない?」
悪気のない笑顔に俺は頷くしかなくて、シャワーを貸し、着替えを貸し、コンビニまでビールを買いに走ってもてなした。
ただの雨宿り。
親しい友だちが通り雨に困っただけ。
君は鼻歌まじりにビールを飲み、分かるような分からないような話を続ける。
俺は自分ちなのにきまり悪くて、君の顔が見れない。
綺麗な指で光る指輪や、滑らかな首元で揺れるネックレスに視線を向けていた。
「あ、雨止んだみたい」
朗らかに言って立ちあがった君は窓の外を見て、「じゃあまた」と来た時と同じくらい唐突に帰って行った。
通り雨みたいな君に、俺は振り回されてしまうんだ。