【別れ際に】
雨が止んだ。
青空が窓から見え、雲の間から陽の光が差す。
「じゃあね」と立ちあがったおれに、君は「気をつけて帰れよ」と優しく答えた。
……おれは通り雨にかこつけ、雨宿りを口実にして君の家にやって来た。
君の久しぶりの休日を邪魔したのに、シャワーを貸してくれ、着替えを貸してくれ、オマケにわざわざビールまで買って来てくれた。
いつだって優しい君。
おれのこんがらかった話も辛抱強く聞いてくれる。
でもさ、それはおれだけじゃなくて、君は誰にでも優しいから。
おれは「気をつけてって、真昼間だぞ?」と笑った。
「おれは大丈夫」
自分に言い聞かせて、ヒラヒラ手を振った。
「──なあ、やっぱり帰るなよ」
別れ際、君がさっきまでの優しい顔じゃなく、不機嫌そうにおれの手を握る。
「帰るなよ」
誰にでも優しい君じゃなく、ワガママな君はおれだけのものだ。
9/28/2023, 1:01:05 PM