【ジャングルジム】
子どもの頃、ジャングルジムの1番上に立てばヒーローになれた。
小さな子どもから見れば、ジャングルジムはエベレストと同じくらい高い山だったんだ。
兄貴の真似をしてジャングルジムによじ登り、初めて1番上に立って見渡した公園は、見慣れているはずなのに知らない場所みたいだった。
まるで地球のてっぺんに立ったような最高の気分だった──。
今日は記念日だからと仲間と飲みに行った帰り道、君を誘って少し遠回りしてここに来た。
何十年か振りで訪れたそのジャングルジムは俺の背より低かったが、やっぱりその上から見る景色は新鮮で、最高の眺めだ。
星空の下、秋の気配が濃くなった夜風に君の明るい髪が揺れている。
「三十過ぎてジャングルジムに登るとは思ってなかったよ」
そんなふうに言って君は笑う。
今、俺らはジャングルジムなんかよりもっと高い場所で、もっと明るい光を浴びながら、煌めく景色を眺めることができる。
でもそれは当たり前じゃなく、奇跡みたいなことだ。
心から信頼できる仲間たちがいることも。
君がこうして隣にいることも。
ジャングルジムのバーを握る君の手に、俺の手を重ねた。
【声が聞こえる】
君の声が聞こえる。
いつも。どこでも。
コーヒーを口にする時。
“モーニングコーヒーなんて、まるで恋人みたいじゃん。いっそのこと、俺らホントの恋人にならないか?”
街中で金木犀が香る時。
“金木犀が匂ったら俺を探してみ?近くにいるかもよ”
綺麗な星空が広がる時。
“星の下でキスなんて少女マンガみたいだな”
どんな物にも、どんな場所にも、君との思い出があるから。
君の声が聞こえる。
【大事にしたい】
何を大事にしたいって、睡眠時間だよな
時計を見ながら考える
そしてやっぱり電話する
しかもテレビ電話
悪いか
……悪いよな
画面の向こうで「なんだよ」って笑う君に会いたい
【君からのLINE】
おやすみ
おはよう
雨降ってきたよ
晴れたね
暑いね
寒いよ
君からのLINEは短い
仕事に忙しい俺を気遣って、返事を求めない文面。
会えなくて寂しいくせに、そんなことは絶対言ってこない。
俺だって寂しいんだよ。
これから君の家に行っちゃうからな。
俺からのLINEも短い
待ってろ
【本気の恋】
恋はたくさんした。
一晩、ひと夏、ひと冬。
それなりに相手を大切にしたつもりだ。
でも。
たまらなく愛しくて、狂おしくて、自分が壊れそうなほどに恋したのはあなたしかいない。
何もかも投げ捨ててもいい。
誰かに後ろ指をさされて嗤われたっていい。
思い詰めた俺に、あなたは「ばかやろ」と笑った。
「本気にすんな、遊びだよ。こんなの」
本気の恋を遊びに塗り替え、いつでもお気軽にゲームオーバーできるよう、逃げ道を作ってくれる──俺のために。
お互い本気だもんな。
本気の恋だもんな。