月園キサ

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5/17/2024, 11:33:41 AM

#悠と響 (BL)

Side:Hibiki Kutani



「よし、やるか…」

「…だな…」


時刻は午前1時。俺はとある計画のために相棒の悠の家に呼び出された。

俺たちがこれから男2人揃ってやろうとしているのは、決して許されない真夜中の秘め事。


「…うんっっめぇ〜…!」

「うんま…やってみるとハマるなこれ」


…という名の、深夜のジャンクフードタイムだ!

実を言うと、本当は俺はこういう計画にするつもりはなかった。

ただ…昨日ニヨニヨしながらファストフード店で爆買いしているところを悠に見られた挙句、何を思ったのか『俺も共犯者になってやろうか』なんて悠が言い出したもんだから、このド深夜に悪魔的計画を実行するに至ったというわけだ。


「カロリーも人目もガン無視でこの量を食す背徳感…たまんねぇ…!」

「響、ポテト食う?」

「おうっ、モチのロン」

「ほい、あーん」

「!?」


悠…お前なぁ…!
何「こうやって食うのが普通だろ?」みたいな顔して俺にポテト差し出してんだ!!

俺は叫ぶ代わりにキッと悠を睨んで静かに抗議した。


「…?食わねーの?」

「いやいや俺自分で食えるからな??」

「いいからあーんしなって」

「…お前なぁ〜…」


…もしこの部屋が薄暗かったら、俺の熱くなった顔を誤魔化せたのに。コノヤロウ。

俺は渋々口を開けて、悠の手からポテトを奪った。


「響、何で顔赤くなってんの?」

「オメーのせいだよこの朴念仁!」


悠が涼しい顔をしているのがそろそろムカついてきたから、俺は仕返しに悠の分のポテトを掴んでまとめてモグモグ食ってやった。

…が。


「ちょっと、それ俺の分」

「ふん、悔しかったら取り返してみろよ」

「…OK、じゃあそうする」

「…うん?」


悠は小さなため息をつくと、ポテトを咥えている俺の両肩をがしっと掴んだ。
それから何の躊躇いもなく、俺の顔に顔を近づけて…。


「!!?!?」


…もう少しで悠の唇が俺の唇に触れそうなギリギリの距離で、俺が咥えていたポテトを噛み切った。

やりやがったなこいつ…!!


「はっ!?お、おま、今…!」

「んむ…悔しかったから取り返しただけだけど、何か問題でも?」

「…~~っ!!」


悠は俺から奪い返したポテトをもぐもぐ食べながら、また涼しい顔で俺を見た。
その余裕綽々とした態度が、くっっそ腹立つ。


「もしかして、キスしてほしかったとか?」

「…んなわけあるか!」

「え、何今の間」


最初は『真夜中にジャンクフードキメたるぜイェーイ』的なノリで始めたこの計画だったのに、相棒のせいで本当に真夜中の秘め事みたいになってしまった。

悠…お前ってやつは…。
ちなみにキスするならポテトの塩味がない時がいいぞ。
いや、これを悠に言うのはやめておこう。


結局、それから俺たちは爆買いしたジャンクフードを約2時間かけて完食し、そのままぶっ倒れるように寝落ちした。




【お題:真夜中】


◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・宮前 悠 (みやまえ はるか) 攻め 高2
・久谷 響 (くたに ひびき) 受け 高2

5/16/2024, 11:36:47 AM

#柚原くんの一目惚れ (BL)

Side:Luki Ichinose



第一志望に選んだ男子校の入学式があったのが3週間前。
約半年間付き合ってた彼女をフッたら、同じクラスになった柚原に突然告白されたのが2週間前。

…何だこの入学早々のイベントに有るまじき情報量。とは思ったけど、まぁ柚原自身良い奴っぽいし、キレるとなんか面白いし…ということで程々につるんでいる。


「…柚原ぁ、メシ行かなくていーの?俺腹減ったんだけど」

「だ、か、らっっ!!何で毎回わざわざ俺の頭を顎置きにすんだよこのノッポが!!!!」

「え〜…いーじゃん、柚原可愛いし」

「んなっっ!!…か、可愛いって言えば許されると思ってんなよ!?」

「は〜いはい、可愛い可愛い〜」

「市ノ瀬それテキトーに言ってるよなぁ!?」


…程々につるんでいる。うん、多分。

身長159cmの柚原の頭に顎をのせてぐりぐり〜っとすると、なんかイイ匂いするし毛質はフワフワで気持ちいい。

一度やるとなかなかやめられないんだな、これが。


「おいいいやめろおおお!髪型崩れるうううう!!」

「はいはいごめんごめん。後で俺が直したげるから機嫌直しなって。愛があれば髪型だって直せる俺だから」

「言ったな??よっしゃ、イケメンにしろよ!」

「え、やだ。柚原にイケメンは無理」

「何でだよぉ!!!!」


柚原は言葉ではキレていても、何故かちょっと嬉しそうにしている時がある。
…いわゆる惚れた弱み、ってやつか?

そんな柚原の反応が面白くて、いつもしている黒いマスクの下の俺の口角がちょっとニヤついてしまった。


「何でちょっと嬉しそーなの」

「はっ!?…そ、そんなに嬉しそうにしてたか俺!?」

「柚原って俺のこと相当好きなのな〜」

「…」


冗談半分でそんなことを言ってみたら、柚原が黙った。
顔も耳もみるみる真っ赤になっていっている。


「…は、はぁ??好きだけど文句あんのかよ…??」


────────キュン。

…は?何これ。キュンって何、キュンって。
何で胸のあたりがこんなムズムズしてんの?意味分かんない。

今まで他人にそこまで興味なんて持たなかったのに、この感覚が俺らしくなくてどこか気色悪いとさえ思う。

確かに柚原は今までつるんできた奴らとは全く違うタイプだけど、だからって俺がそんな簡単にキュンとくるようなタイプだとは正直思えない。

…でも、何故かこいつのことは構いたくなっちゃうんだよな。


「おーい市ノ瀬〜…聞いてんのかぁ?」

「ん?あ〜…なんか、柚原が可愛いなって思って気ぃ取られてたわ」

「それ今1ミリも思ってないだろぉ…」

「さぁね〜」


俺はあえてはっきりと答えずに、また柚原の頭に顎をのせてぐりぐりし始めた。

速くなった心臓の音が柚原にバレないように。
ちょっとニヤついた俺の表情が柚原に見えないように。


「も〜…それやめろって言ってるだろおおお…」

「かまちょしてる柚原のことを構ってるだけで〜す。愛があればかまちょの対応だってお手のもの〜」

「かまちょしてねぇし…!」


…案外、構ってほしいのは俺のほうだったりして。なーんて。

愛があれば何でもでき…る?まではまだ程遠いけど、俺は今日もこうして柚原を可愛がっている。




【お題:愛があれば何でもできる?】


◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・柚原 愁 (ゆずはら しゅう) (受けみたいな)攻め 高1
・市ノ瀬 瑠貴 (いちのせ るき) (攻めみたいな)受け 高1

5/15/2024, 2:34:52 PM

#澄浪さんの好きなひと (BL)

Side:Machi Hokazono



「ほーかぞーのくーん!ねぇ、たまには外園くんも一緒にパーッと飲み行こうよ!」

「んえっ、えっと…僕は…」

「外園ぉ〜、お前働きすぎだって!明日休みなんだし羽伸ばそうぜ〜?」


…と、会社の先輩と同期数人に強制連行される形で退社したわけだけど、僕はこのお誘いをキッパリ断れなかったことをものすごく後悔した。

何故なら、連れてこられた場所が…。


「フォオオオオオ!!!!」

「キャアアアアア!!推しが踊ってくれるなんてラッキー!!!!」


…静かなバーならまだ良かったものの、まさかの…ショーバー…!

入口付近にあったちょっとセクシーな看板で、何となく嫌な予感はしていた。
けど…今までクラブに行ったことすらない地味リーマンの僕の初めての夜遊びがこれって、いくら何でも刺激が強すぎる…!

そもそも…これ、客層的に明らかに女性向けな気がする…。


「あ、あの…男の僕がいてホントに大丈夫なんですか?こ、ここって、その…」

「大丈夫だよぉ!ショー自体はゲイの男性と女性向けだけど、ノンケの子もフツーに見に来れるし!」

「え?ゲイ…?ノンケ…?えっ…?」

「まーまーまーまー1回見てみろって!俺もお前みたいにこいつらに連れてこられて見たけどハマったから!」

「ええええええ…」


あ、危ない遊びじゃなかったらいいんだけど…。


…なんて思っていた僕がバカだった。
爆音で流れるBGMで脳をぐわんぐわん揺さぶられ、腰をくねらせてセクシーに踊る男性たちと、それに狂ったように歓声を上げる観客の熱量で…早くもフラフラになりそうだ。

僕は苦手なお酒を飲んでいるふりをして、僕を1人置いてステージに近づいていった先輩たちをぼんやりと眺めていた。


ところが数分後。演目が終わった途端に歓声がさらに大きくなり、僕はこの慣れない状況にさらに縮こまってしまった。


「さぁさぁお待ちかねのチップタ〜イム!Go Go~!!」

「キャアアアアアア!!!!」


…うぅ、このパリピ的なノリと色々な面での刺激の強さ…めちゃくちゃ苦手だ…。
やっぱり僕…断っておけばよかった…。


他のお客さんが推しのダンサーさんとのトークを交えたチップタイムを楽しんでいるのを見て虚無になっていると、誰かがポンポンと僕の肩を優しく叩いた。


「…具合悪いんですか?お水持ってきましょうか?」

「ひいっ!え、あ、あの…うう、すみません…お願いします…」


顔を上げたら隣に綺麗めなコートを着てセクシーなメイクをした男性がいて、僕は変な声をあげてビビり散らかしてしまった。
この格好はもしや…この人もあのステージにいる人たちと同じダンサーさんなのだろうか?

ああ…僕、絶対に場違いな奴だと思われた…。


持ってきてもらった水を飲み干すと、その男性も僕の座っている席の向かい側に座ってオシャレなカクテルを飲み始めた。


「こういうところに遊びに来たのは初めてですか?」

「は、はい…そうなんです。あそこにいる同僚と先輩に飲みに行こうと連れてこられて…」

「私もそうでした。初めてこの世界に足を踏み入れた時…あなたと同じようにこの隅の席で静かに飲みながら、仲間が騒いでいるのを眺めていたんですよ」

「ええっ? な、なんか…意外です。その…お兄さんは僕なんかよりずっと、遊び慣れてるように見えるから…」

「ここには色々な人が来るんですよ。単に欲を満たすために来る人、音楽を聴きに来る人、パフォーマーたちのファッションを見に来る人、ショーを肴にお酒を飲むのを楽しみに来る人…。ここではそのどれもが許されるんです」

「へ、へぇ…」


こういう状況って、どんなことを話すのが正解なんだ…?

僕がまた1人であたふたしていると、お兄さんがウィンクをしてこう言ってきた。


「…ふふ。それと…私のことはお兄さんじゃなくて、ミナミって呼んでください」

「あ、えっと…ミナミ、さん?」

「ここでは皆、私をそう呼んでくれるんです。あ…噂をすれば」

「…?」


ミナミさんの視線の先を追うと、他のお客さんが皆ミナミさんのいる方向を振り返って目を輝かせていた。

…えっ、いきなり何があったんだ…?


「え!えっ!!あそこにいるのミナミくん!!?」

「ミナミくんや!!来てたの!!?」

「ミナミくんんんんん!!」

「…え?あの、ミナミくんって…」

「おっと…ふふっ、こっそり見てたのバレちゃいました。私はこれからメンバーに挨拶しに行ってくるので、楽しんでくださいね」

「あ、は、はい…ありがとうございます…」


僕を助けてくれたミナミさんは、なんとこのショーバーの人気パフォーマーだった!
ミナミさんが客席の間を通り抜けてステージに近づいていくと、さっきまでは薄暗くて見えなかった黒い前下がりボブのヘアスタイルが眩いライトの下であらわになった。
…かっこいいというより、綺麗な人だ。

こういう場では皆が皆パリピで、大騒ぎするのが当たり前で、僕のような遊び慣れていない地味メンは相手にされないのだとばかり思っていたけど、ミナミさんのように優しい人がいて本当に良かったと思った。




──────────



「うはぁーーー楽しかったあああああ!!心が潤った♡」

「佐々木お前チップタイムの時にナオさんの胸筋触りすぎだって!」

「えぇーっ??井田くんだって何だかんだ言いつつタクヤさんのパンツにノリノリでチップ何枚も突っ込んでたじゃん!ソッチに目覚めた??」

「ばっ…!!シーッ!声がデカい!!」

「外園くんもミナミくんにチューでチップ受け取ってもらえてよかったね…って!え!?外園くん生きてる!?」

「外園くーん!?大丈夫!!?」

「は!?外園どうした!!?」


…結局僕はショーのあまりの刺激の強さに脳をトロトロに溶かされたうえに、チップタイムのミナミさんのターンで井田くんに言われるがままに素直にチップを口にくわえたら「ありがとうございます」の囁きとともに…その…。


「…ああああああぁ…」


…ふにっと僕の唇にミナミさんの唇が触れる感触がしてすぐに、僕は童貞丸出しで気絶してしまったのだった。

やはり僕にこんな遊びは向いていない。
来なければよかったという後悔より、今回遊びに行ったメンバーの中で僕だけが遊び慣れていなかったことが恥ずかしくて、穴があったら入って一生出てきたくないという気持ちでいっぱいだ。


…こうして、僕にとってあらゆる意味でハイレベルすぎた夜は更けていった。




【お題:後悔】


◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・外園 摩智 (ほかぞの まち) 攻め 25歳 リーマン
・ミナミ/澄浪 伊智瑠 (すみなみ いちる) 受け 31歳 ショーバーのパフォーマー

5/13/2024, 11:59:40 AM

#想いを拗らせすぎた元暗殺者の話 (BL)

Side:Reynaud Blanchard



「…こんな俺に優しくしないでくれよ、頼むから…」


苦しげに絞り出されたイザイアの言葉に、僕はただ静かに首を横に振った。

僕がそんなことできるはずがないと、彼は嫌というほど分かっているはずだ。
それに…僕らは確かに愛し合っていた。だから、あの幸せな時間が失われたとは全く思っていない。

突然何も言わずに姿を消した最愛の人を約1年間探し続けてやっと見つけたというのに、ここでああそうですかと引き下がる訳にはいかない。

僕はイザイアにゆっくりと近づいて、花の手入れをしている彼を後ろから抱きしめた。


「…何のつもりだ、レノー」

「君がいなくなったあの日から…何を食べても美味しく感じなくなったし、城のバルコニーから夜空を眺めるたびに君との時間を思い返して苦しくなった。僕がこの1年間どんな思いで君を探していたか、分からないだろう?」

「…」

「…会いたかった。ずっと君に会いたかったんだよ、イザイア」

「元とはいえ、俺は暗殺者だ。仕事のために何度もお前を殺そうとした俺にはお前に愛される価値も、お前を愛する資格もない…!」

「イザイア、落ち着いて…もう黙って…」


…価値がないだなんて言葉、もうイザイアの口から聞きたくない。
またあの頃のように、その逞しい腕の中に僕を閉じ込めてくれよ…!


僕はイザイアの両肩を掴んで強制的に僕の方へ向かせると、半ば衝動的に彼の唇を奪った。


「…っ!」


離れ離れになっていた約1年分の時間は取り戻せないけれど、もう彼を独りになんてしない。
もう二度と、愛する資格がないなんて言わせない。
…愛してほしい…。

僕は何度か角度を変えて唇を重ねた後、ゆっくりと彼を解放した。


「…君くらい力が強い人なら、僕を簡単に突き飛ばせただろうに…」

「…」

「それをしなかったのは…そういうことだと思っていいの?」

「…言わせるな」

「…え。イザイア…っ!?」


イザイアが突然僕のシャツの襟元を掴んだかと思いきや、ガブッと噛みつくようなキスをお見舞いされた。

…約1年ぶりの、彼からのキスだ…!

このキスだけで、僕のあんなに悩んで苦しみ抜いた時間は決して無駄ではなかったのだと思えた。


「…と、突然だね…?」

「お前のキスだってそうだ」

「さっきのは…その、君がまた僕の聞きたくない言葉を言いそうだったから、つい…」

「…でも、いいのか?お前がシャサーヌ侯爵家の人間とはいえ、俺と関わり続ける限りお前は命の危機と常に隣り合わせになるんだぞ」

「ふふ…それは既に覚悟してるよ、君と初めて愛し合ったあの日からね」


イザイアの腕の中に再びおさまった時、僕はようやくゆっくりと息ができたような感覚がした。

嗚呼…なんということだ。
どうやら独りになるとダメなのはイザイアじゃなくて、僕のほうだったようだ。




【お題:失われた時間】


◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・イザイア・キアルージ (Isaia Chiarugi) 攻め 28歳 元暗殺者
・レノー・ブランシャール (Reynaud Blandchard) 受け 28歳 侯爵家の次男

5/11/2024, 11:50:17 AM

#ある殺し屋さんの苦悩 (BL)

Side:Toka Himekawa



アンダーグラウンドな世界に生きる者たちが束の間の安らぎを得るために訪れる場所、それが住所非公開の隠れ家的バー「Vanellie-Rose (ヴァネリー・ローズ)」。

俺がこの場所を訪れるのには安らぎを得るのとはまた違う目的がある。それは…。


「ハーイ皆さん!変態クソマフィアを潰してきたばかりの藤佳さんの参上だよ〜!!」

「お〜、藤佳さん相変わらずキレイっすね〜!女装してるってことは、ハニトラやってきた感じっすか?」

「だと思うじゃん?これ自前よ自前♡」

「マジっすか!!?女装してなくてもこんなにキレイとかハニトラ向きのビジュすぎません!?」

「でっしょお〜??藤佳さんは自分磨きを一度も欠かしたことないからね!」


…コホン。いや、目的はこのチンピラたちじゃない。そもそも、興味がない。
ツルツルスベスベな美ボディーと中性的なビューティフルフェイスをもつ俺がいつも身綺麗にしているのは全て、ある男のためだ。


「ハロー、功一さん!ほらほら〜、お待ちかねの藤佳さんが来たよ〜ん」

「…」

「ねーえーーー、こーうーいーちーさーーーーん?」

「…いらっしゃいませ」


この寡黙で堅物な彼はここVanellie-Roseのマスター、菅生功一。
特にヤバそうな感じもしない普通の人間のように見えて、実は百戦錬磨の殺し屋である俺が初めて殺り損ねた男だ。

そんな彼の正体は、暗殺組織の撲滅を目的とする対暗殺者専門の秘密組織「J-RAVEN (ジェイ・レイヴン) 」が擁しているエリート傭兵、通称「Kay (ケイ) 」。

つまり…殺し屋をしている俺にとって、功一さんは何が何でも殺らねばならない天敵なのだ!


俺の長年培ってきたハニトラスキルで精一杯可愛くアピールしても、功一さんは一切俺のほうを見ようとしない。
それどころか、さっきから淡々とウイスキーのグラスを磨き続けている。何故俺の渾身の誘惑が効かない…!

…だが!だからこそ燃えてくるのがこの俺、百戦錬磨の藤佳さんだ。


「ねぇ…功一さん。藤佳さん今日ね、超〜〜サイアクなマフィアをたった1人で潰してきたんだ〜。すごいでしょ?」

「…そうですか」


ぐっ…またしても1分経たないうちに会話を強制終了されてしまった。でも、この塩対応にはもう慣れきっているし想定内だ。

…ああ、この男の鉄壁の無表情が崩れる瞬間が見てみたい。
あのチンピラたちさえいなくなってくれれば、功一さんと2人きりになれるのに。

俺は酔って絡み酒になったチンピラたちにウンザリしているフリをしながら、慣れた手つきでカクテルを作る功一さんを横目で見続けた。


…悔しいけど、俺よりもずっと大人でイイ男なんだよなぁ。功一さんって。


「…何を見ているんですか」

「えっ?ん〜…功一さんの顔?」

「…」

「ちょっとお〜…功一さんったら、そこはふざけたこと言わないで〜って言っていいとこだよ?」

「…」


あーあ、功一さんがまた喋らなくなっちゃった。つまんないの。
でも、功一さんが淡々と仕事しているところをただ眺めているだけなのも案外悪くないかもしれない。

…いや、別に惚れてるわけじゃないんだからね。
いつかは必ず彼を殺らないといけない。それは分かっている。
分かっている…はずなんだ。


「功一さん、だぁい好き〜っ!」

「…何ですか、急に」

「愛を叫びたくなっただけ♡」

「…分かりきった嘘をつかないでください」

「なぁんでぇ〜!?大好きなのはホントだってばぁ〜!!」


殺る機会を伺うためにあえてこんなことを言っているだけで、俺は断じてこの男に惚れちゃいない。
そう。俺は惚れてなんか、ない!


そしてこれは何故か天敵を殺せない殺し屋の苦悩と葛藤、そして殺し屋の襲撃を優雅に華麗にかわし続ける傭兵の熱い…熱い?攻防戦を綴る物語だ。




【お題:愛を叫ぶ。】


◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・菅生 功一 (すごう こういち) 攻め 37歳 傭兵(兼バーのマスター)
・姫川 藤佳 (ひめかわ とうか) 受け 26歳(※真偽不明) 殺し屋

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