月園キサ

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#ある殺し屋さんの苦悩 (BL)

Side:Toka Himekawa



アンダーグラウンドな世界に生きる者たちが束の間の安らぎを得るために訪れる場所、それが住所非公開の隠れ家的バー「Vanellie-Rose (ヴァネリー・ローズ)」。

俺がこの場所を訪れるのには安らぎを得るのとはまた違う目的がある。それは…。


「ハーイ皆さん!変態クソマフィアを潰してきたばかりの藤佳さんの参上だよ〜!!」

「お〜、藤佳さん相変わらずキレイっすね〜!女装してるってことは、ハニトラやってきた感じっすか?」

「だと思うじゃん?これ自前よ自前♡」

「マジっすか!!?女装してなくてもこんなにキレイとかハニトラ向きのビジュすぎません!?」

「でっしょお〜??藤佳さんは自分磨きを一度も欠かしたことないからね!」


…コホン。いや、目的はこのチンピラたちじゃない。そもそも、興味がない。
ツルツルスベスベな美ボディーと中性的なビューティフルフェイスをもつ俺がいつも身綺麗にしているのは全て、ある男のためだ。


「ハロー、功一さん!ほらほら〜、お待ちかねの藤佳さんが来たよ〜ん」

「…」

「ねーえーーー、こーうーいーちーさーーーーん?」

「…いらっしゃいませ」


この寡黙で堅物な彼はここVanellie-Roseのマスター、菅生功一。
特にヤバそうな感じもしない普通の人間のように見えて、実は百戦錬磨の殺し屋である俺が初めて殺り損ねた男だ。

そんな彼の正体は、暗殺組織の撲滅を目的とする対暗殺者専門の秘密組織「J-RAVEN (ジェイ・レイヴン) 」が擁しているエリート傭兵、通称「Kay (ケイ) 」。

つまり…殺し屋をしている俺にとって、功一さんは何が何でも殺らねばならない天敵なのだ!


俺の長年培ってきたハニトラスキルで精一杯可愛くアピールしても、功一さんは一切俺のほうを見ようとしない。
それどころか、さっきから淡々とウイスキーのグラスを磨き続けている。何故俺の渾身の誘惑が効かない…!

…だが!だからこそ燃えてくるのがこの俺、百戦錬磨の藤佳さんだ。


「ねぇ…功一さん。藤佳さん今日ね、超〜〜サイアクなマフィアをたった1人で潰してきたんだ〜。すごいでしょ?」

「…そうですか」


ぐっ…またしても1分経たないうちに会話を強制終了されてしまった。でも、この塩対応にはもう慣れきっているし想定内だ。

…ああ、この男の鉄壁の無表情が崩れる瞬間が見てみたい。
あのチンピラたちさえいなくなってくれれば、功一さんと2人きりになれるのに。

俺は酔って絡み酒になったチンピラたちにウンザリしているフリをしながら、慣れた手つきでカクテルを作る功一さんを横目で見続けた。


…悔しいけど、俺よりもずっと大人でイイ男なんだよなぁ。功一さんって。


「…何を見ているんですか」

「えっ?ん〜…功一さんの顔?」

「…」

「ちょっとお〜…功一さんったら、そこはふざけたこと言わないで〜って言っていいとこだよ?」

「…」


あーあ、功一さんがまた喋らなくなっちゃった。つまんないの。
でも、功一さんが淡々と仕事しているところをただ眺めているだけなのも案外悪くないかもしれない。

…いや、別に惚れてるわけじゃないんだからね。
いつかは必ず彼を殺らないといけない。それは分かっている。
分かっている…はずなんだ。


「功一さん、だぁい好き〜っ!」

「…何ですか、急に」

「愛を叫びたくなっただけ♡」

「…分かりきった嘘をつかないでください」

「なぁんでぇ〜!?大好きなのはホントだってばぁ〜!!」


殺る機会を伺うためにあえてこんなことを言っているだけで、俺は断じてこの男に惚れちゃいない。
そう。俺は惚れてなんか、ない!


そしてこれは何故か天敵を殺せない殺し屋の苦悩と葛藤、そして殺し屋の襲撃を優雅に華麗にかわし続ける傭兵の熱い…熱い?攻防戦を綴る物語だ。




【お題:愛を叫ぶ。】


◾︎今回のおはなしに出てきた人◾︎
・菅生 功一 (すごう こういち) 攻め 37歳 傭兵(兼バーのマスター)
・姫川 藤佳 (ひめかわ とうか) 受け 26歳(※真偽不明) 殺し屋

5/11/2024, 11:50:17 AM