hashiba

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4/8/2024, 2:58:01 AM

日中降り続いた雨は、仕事を終えて帰る頃にはすっかり止んでいた。雲もあらかた捌けて風が冷たい。ここから夜はさらに冷えることだろう。今更になって顔を出し、そしてまた消えようとする太陽が少しだけ憎い。ため息をついたら不意に隣から「今日は鍋にしますか」と提案が。鍋。それなら寒い夜も悪くはない。スーパーに寄って、それからこの人と一緒の家に帰ろう。用済みの傘を二本提げ、暗くならないうちにと歩き始めた。


(題:沈む夕日)

4/7/2024, 6:34:12 AM

物言いたげにじっとこちらを見ている。他人を気にしない彼が他人と目を合わせるなんて、何かを伝えたいとき、または何かを疑っているときだけだ。さて恋人の自分に一体何を疑っているのか。どうした、と声をかけて回答を促す。時間にして約十秒。おもむろに頬を染めて「何でもない」と逃げようとするから思わず笑ってしまった。なるほど、前者だったか。せっかくだから捕まえて問いただすことにした。


(題:君の目を見つめると)

4/6/2024, 2:20:51 AM

煙草なんて珍しい。この夜更けにどこへ行ったのかと探してみれば、その人は窓辺で空を眺めて煙を吹かせていた。眠れないのか、考え事でもしているのか。その背中は窓枠に寄りかかり小さく丸まっている。初めて見る姿だった。勝手にどこか遠くへ行ったような気がしたが、それでもまだ星よりは余程近い。名を呼び、その背に触れようと静かに足を踏み出す。細い煙がわずかに揺れる。風のない夜だった。


(題:星空の下で)

4/5/2024, 12:57:55 AM

まめではあるが、とにかく忙しい人である。定時を過ぎて久しいというのに既読がつかなかった。今日はもう期待できないだろう、大丈夫、明日連絡できればそれで、なんて諦めかけていたところに彼からの着信。他愛ない二言三言の会話。だけどこれは反則だ。このタイミングで声まで聞いたら駄目になるだろう。再び沈黙したスマホからタクシーアプリを呼び出す。火照った顔がおさまらない。このままで終わらせていいわけがない。


(題:それでいい)

4/4/2024, 1:27:10 AM

あの人の帰りが遅い。繁忙期というやつだ。今の仕事は天職だと何度か口にしていた。やりたいことをやれているなら何も言うことはないが、それにしたって既に夜が深い。夕食は冷蔵庫に用意がある。風呂もすぐ沸かせる。この場に欠けているのはあと一つ。いつ帰るのか、何時になるか連絡くらい寄越せと今日一番の気持ちを込めてメッセージを送信。


(題:1つだけ)

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