hashiba

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4/3/2024, 12:58:44 AM

鳥籠に入れずに放し飼いして、必ず戻ってくるその姿で愛情を確かめる。そういうやり口は悪趣味で非常識だと、籠に入れても自由に出ていく鳥本人に咎められた。それでも思うところがあったのだろう。このときからだ。帰り際の「さようなら」が「また来ます」に変わったのは。


(題:大切なもの)

4/2/2024, 12:58:21 AM

うららかを通り越した気温に頭がやられた、ということにしておきたかった。通りがかったその人の後ろ姿を、何を思ったか抱き寄せてついでに顔を埋めていた。無防備な背中は思ったより温かく、あと思ったより広い。急にどうしたのかとその人は慮る。声帯が震えて顔が少しくすぐったい。こんなに素直な自分は偽物だ、嘘なのだと言って聞かせれば「そうですか」となぜか嬉しそうに笑っていた。


(題:エイプリルフール)

4/1/2024, 1:07:21 AM

水をやりすぎて根腐れさせるタイプだ、と昔友人に言われたことがある。今もそうだろうか。炊いた米を手の中で整えながら考える。おにぎりなんていつ以来だろう。彼が好きだと知ってはいたが、握ったそばからそれはそれは美味しそうに頬張っていくのだからたまらない。この根は腐るどころかまだまだ水を欲している。それは都合のいい解釈だろうか。空になった皿を前にじっと見つめる目。仕方ない、と自分に言い訳をして再び炊飯器に向かう。


(題:幸せに)

3/31/2024, 12:51:50 AM

不意に手が触れ合った。さっきと変わらずその人は隣で雑誌を読んでいる。スマホを操作していないこっちの左手に、その人の右手が触れた。当人は驚きも謝りもせず、視線は誌面に落としたまま。いや、よく見れば少しだけ瞳が不敵に細まっている。指先が左手の甲を、指の間をゆっくりとなぞる。まったくこの人は、何かしたいならもっとわかりやすく示してもらいたい。抗議と、それから了承の意を込めてその手を握り返した。


(題:何気ないふり)

3/30/2024, 5:19:29 AM

お互い老い先がさほど長くないわけだが、果たして死んだくらいで手放してもらえるだろうか。行く先が天国だろうが地獄だろうが、構わず追いかけて来るのではないか。隣で眠っているこの人に引っ捕まえられたまま、寝起きの頭でそんなことを考えていた。これでは寝返りが打てないだろうに。おまけに体温が高いからこっちは眠くて仕方ない。カーテンの隙間から差す光を無視し、その胸に顔を埋めて二度寝を決め込んだ。


(題:ハッピーエンド)

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