不意に手が触れ合った。さっきと変わらずその人は隣で雑誌を読んでいる。スマホを操作していないこっちの左手に、その人の右手が触れた。当人は驚きも謝りもせず、視線は誌面に落としたまま。いや、よく見れば少しだけ瞳が不敵に細まっている。指先が左手の甲を、指の間をゆっくりとなぞる。まったくこの人は、何かしたいならもっとわかりやすく示してもらいたい。抗議と、それから了承の意を込めてその手を握り返した。(題:何気ないふり)
3/31/2024, 12:51:50 AM