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7/30/2024, 11:04:30 AM

きっと忘れることはできない

あの夏

僕と妹と父さんと母さんで
キャンプに出かけた

森の中のキャンプ場に着くと
渓谷からの水の音が

サアーッと聞こえる

僕と妹は浮き輪を準備する

その傍らで父さんと母さんは
テントを設置する

かごと網はどこだっけー と妹

まだ車にあるよ と父さん

僕は浮き輪を膨らませると
車に戻って虫かごと網を探した

あった と 振り返ると

気が付かない間に

もう一台の車が僕らの車のすぐ近くで
停まっていた

お姉さんが1人で車から降りて
黙々とテントを張っている

その日はカラスアゲハを取り損ねたけど
サワガニを妹と一緒に取った

夜ご飯のカレーはとても美味しかった

お姉さんのことは忘れていた

翌朝 まだ暗いうちに目が覚めた僕は
テントから出て身震いをした

初夏だというのに

寒いのだ

隣を見やるとお姉さんの居るテントだ



ファスナーを開けてお姉さんがテントから顔を出した

僕と目が合った

とても綺麗な薄茶色の澄んだ瞳だ


おはよう ぼく とお姉さんが言う

おはようございます と僕は挨拶した

寒いね 初夏なのに とお姉さん

僕は頷いた

こっち と
お姉さんが手招きするので

なんですか と僕が聞くと

あったかいもの用意するからおいで
まだ4:30だよ とお姉さんは笑った

小さな折り畳み椅子を広げて用意してくれた

薄いブランケットを纏ったままお姉さんは外に出て
テーブルにカセットコンロを用意すると
火をつけて牛乳を温め
蜂蜜を入れてかき回すとステンレスのコップに
注いで ちょっと熱いよ と言いながら
僕に勧めてくれた

ありがとうございます

と僕はテーブルに置かれたコップを眺めた

お姉さんがもう一つのコップに蜂蜜ホットミルクを
注いで少しふうふうしながら飲んだ

あっつい

お姉さんはそう言うと
自分のブランケットを僕に巻き付けるようにして
僕の身体を温めてくれた

僕がお礼を言うと
お姉さんは

ぼくが風邪ひいちゃったら
お父さんとお母さんに悪いでしょ?と言った

少し冷めた蜂蜜ホットミルクを
ちびちびと飲んだ

甘くてとても美味しい

お姉さん なんで1人でキャンプしてるんですか?

と僕が訊くと
お姉さんは

お友達いないもん

と言った

ぼく 私の友達になってくれる?


お姉さんは言い
少し寂しそうに笑った

おい と
父さんの声が聞こえた

お邪魔してすみません と父さんが歩いて来て言うと

お姉さんは

いえ ちゃんとお礼も言えるし
とても良い子ですね

と僕を褒めた

お姉さんにブランケットを返すと

またね とお互いに手を振った

僕は時々
この日のことをふと思い出す

お姉さんに恋をしているのかもしれないと思ったのは
ずいぶん後になってからだった

あの夏のお姉さんの
寂しげな澄んだ瞳を

僕は忘れられない

7/29/2024, 10:27:05 AM

こねずみのリックは言いました

雨が降ろうが槍が降ろうが
たとえ火の中水の中

嵐が来ようとも
猫に追い回されようとも

僕には使命がある

亡くなった父さんの代わりに

いつかでっかいパンの耳のかけらを

取ってくるんだ!

ここの人間は

パンの耳をよく落としてくれる

だから

誰もが眠りこけた朝方3:00

僕は行かなければならない!

あのテーブルの元へ!

ここの猫はようく僕ら家族を狙うから

気をつけて行くんだ!

あのテーブルの元から
パンの耳のかけらを

取ってくるのは至難の業だ

でも僕は行く

行くんだ!

父さんの名誉のために!

そして弟達と母さんのために!


こねずみのリックはそう言うと

小さな身体をぶるっと震わせて

人や猫の気配を匂いで嗅ぎ分けて
近くに居ないか確認しました


…匂うぞ まだ居る
あの猫め…

こねずみのリックは壁の隙間から
部屋の中の様子を窺います

あの猫…さっきからジッとして動きやしない!

僕らのことを見張ってるのかなぁ

パンの耳があるからいつもより用心深いんだな…

こねずみのリックは眠る事にしました

ひとまず寝るかな

あの猫が離れるまで…

お母さん 明日は冒険に出るから
起こしてね…おやすみ…

おやすみなさいリック

今日もお疲れ様でした

7/28/2024, 10:25:11 PM

夕方ごろ

子供達のはしゃぐ声や

賑やかな盆踊りの音楽

そしてドンドンカチカチと太鼓の音が
聞こえ始め

窓を少し開けると

暖かな風と

焼肉や焼きそばやイカ焼きの
香ばしい香りが漂ってきた

出かけようかな



浴衣に身を包む

サンダルを履いて

玄関を出ると

いよいよ

子供達がはしゃぎ回っているのが見える

屋台でかき氷のイチゴを頼んだ

りんご飴やミニカステラも美味しそう

わたあめや毒々しい色のうずらの雛達

金魚掬いは大盛況であり射的も見物客が多い

怪しい屋台も楽しい屋台も

それぞれ客で賑わう

友達を見つけた

友達は大きなカメラを持っている

パソコンに載せる写真を撮っているんだ

と友達

盆踊りの会場まで来た

みんな笑って賑やかだ

見様見真似で盆踊りに加わる

友達が夢中で写真を撮っていた



花火の音だ


ドンッ


盆踊りから離れて

人混みの中を歩き

空を見上げると

花火による大輪の花が咲いていた


ドンッ


わぁ

綺麗だねえ

私が言って振り向くと

友達は写真に夢中だった

彼の覗くファインダーからの世界は

きっと賑やかである

一時間ほどして

私は友達と別れて

家に帰った

家がひどく静かで
尚且つそれにホッとした

今日も一日

楽しくて
余韻は少し寂しかった

また
来年も

楽しみにしよう

7/27/2024, 9:58:39 PM

日曜日の小さな礼拝堂

いつも日曜日の朝は祈りに来ている

子供達はポストカード付きのお菓子をもらう

今日も静かに私は牧師さんのお話を聞いている

お母さんの隣でうつらうつらとする女の子

何かメモをとっているおばあさん

窓から入るキラキラした朝日

牧師さんの静かな言葉

静かな雰囲気

今のゆっくりした時間が好きで

毎日あくせくしている私は
ここで心のリセットを行う

ホッとする場所である

すぐ前の席から反対を向いて
5歳ぐらいの栗色の髪をした男の子が私を見ている

お姉ちゃん

男の子に話しかけられた

なあに?

私は何気なく返事をする

お姉ちゃんは神様来たことある?

唐突な質問だ

無いよー? 君は?

聞いてみた

僕ね 今ね 神様が来たのー

男の子は普通のことのように言う

神様はなんか言ったりしたの?

私は男の子にヒソヒソと聞いてみる

神様はねー 僕に笑ってねって言ってた

男の子は普通に答える

良かったね

私はニコニコする男の子に微笑む

うん ありがとうお姉ちゃん

男の子は前に向き直る

(笑ってね かぁ いいな 
私にもそんな時期あったのかな…)

私はぼうっとする

牧師さんも微笑んでいた

7/26/2024, 10:33:15 AM

ミスチルのタガタメを聴きながら

俺は自分1人分の夕飯を作る

ゆでだこを一口大のぶつ切りにして
チューブのわさびと醤油
マヨネーズを合わせて
一口大に切ったアボカドと
一緒に混ぜた

ご飯を盛り

ハイボールを冷えたコップに注ぎ

さっと塩茹でした枝豆もある

俺は

平和ってのは

自分で作るもんだと思う

向こうから

やってくるのを待ってたら

俺はジジイになっちまうし

そんなに待つ気はさらさら無い

自分の平和は自分で作って

自分で守るもんだ

そんなこともできねえで

大人なんぞやってられっかよ

俺は自分を鼓舞するが

俺はいつから大人だっけかなって

年齢で言えば大人だけども

頭ん中はガキンチョ同然だ

まだまだ学びが足りんのだろう

飯が冷めるし

まずは食う


話はそれからだ

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