僕はこの
鳥かごのような
病院に入院して早一年になる
外に出ることは
院内の散歩ぐらいの生活だ
僕は少し頭の育ちが他の人よりも
遅いらしい
だけどお父さんとお母さんは
普通の学校の普通の学級で
僕を通わせて
育ててくれていた
僕はむずかしいことは分からないけど
先生がお父さんとお母さんに何かを言って
僕を鳥かごのような病院に
入れたんだと思う
今は漢字を毎日練習したり
パズルとか折り紙とか塗り絵が好きだ
特にナースのおばさんから
塗り絵を褒めてもらえる
才能があるって
僕は将来
画家になるかもしれないな
才能があるからだ
僕はたまに外に出て
座っているのが好きだ
風とか鳥の声が好きだ
夏は暑いけど
僕は先生に優秀な優等生と言われた
だから僕はそれを今日の日記にも書く
相部屋の子はとてもシャイで
いつも廊下を歩く
たまにテレビを見てる
僕はナースのおばさんに
また完成した塗り絵を見せるんだ
僕は外でいつか生活出来る人になって
病院の人を驚かせたい
そのために僕は今から漢字の練習をする
交換日記をしている
が しかし
大抵は
向こうが何も書かずに持っている割合が
高い
自分はすぐに書いてその日のうちに渡してしまう
が
向こうは
一週間くらい時間を要するらしい
何も書くことが浮かばないと言う
自分は
その友達に代わりに書いてやることはできない
なぜかというと交換日記だからだ
どうしたものだろうか
絵でも描いてみたら?
何もなしって書いてもいいよ
などと言ってみるものの
友達はうなだれている
何を悩むことがあるのだろうか
あることないことなんでも書きゃいい
そう思う自分がいけないのか
真面目に悩む友達にどう言葉をかけていいのだか
わからない
友達は
なんであなたはこう上手に書けるの?
と自分に時々訊く
自分では適当に書いてるだけなので
普通に書くよ
などとしか言えない
自分ももう少し言葉を考えて発言がしたいが
普通に書くよ
が精一杯だった
友達は今日も悩んでいるらしい
近所に猫にハーネスを着けて
散歩をさせるおばちゃんが居て
学校帰りの子供達がよく撫でて猫の相手をしているのを
私はスーパーの帰りに時々見かけて居た
微笑ましいけれど
猫にとっては子供達が多少なりとも
鬱陶しくないか と
要らない心配をしている
子供達が猫の相手をしてくれるわけではなく
猫さんが子供たちの相手をしてくれている
という方が正しい気がした
ある日
スーパーの買い物帰り
またハーネス猫さんが道端をトテトテ
歩いている
おばちゃんもゆっくり後ろから歩いている
猫さんが何かを見つけて
興味津々で立ち止まる
アスファルトの隙間からスミレの花が咲いている
スミレの花に鼻をくっつけて
ふんふんすると
猫さんは戯れ始めた
おばちゃんはそれを見るなり立ち止まって
私に挨拶をしてくれた
私も挨拶する
こんにちはー
猫ちゃんいつも可愛らしいですね
おばちゃんは
ええ
好き勝手歩くのよ〜
と微笑んでスミレに戯れる猫さんを優しい目で見る
猫さんはスミレに飽きたらしい
それじゃあ
また
お互い挨拶して
猫さんとおばちゃんと別れた
アスファルトに咲く花は
健気で可憐なイメージがある
私は猫さんのために
買ってある
かつお節とニボシを持って
明日辺りおばちゃんのところに遊びに行こうと思う
道端に咲く花のような猫さん
名前は
はなちゃんだ
明日を楽しみにして
今日の夕飯を作り始めた
僕は引き出しを確認する
今日も
キャラメルの箱と
苦くて飲まなかった風邪薬と
シャー芯の刺さった消しゴムの欠片と
ノートと
日記と
シャープペンシルと
メモと
ビー玉と
ねりけしと
作りかけて放置してるプラモと
大人の男用の雑誌一冊と…
毎日 僕は
僕の部屋の
机の一番下の
引き出しをチェックしている
ここは僕の秘密のものしか
入れてないんだ
鍵をかけてる
僕はこの引き出しで
将来的には
過去や未来に行くつもりだ
行けると思う
だって
そういう漫画があったから
僕は
隠してあるものをチェックして
今日も異変がないか
細部まで確認をする
キャラメルが減ってないか
苦い風邪薬が無くなってないか
チェックする直前は
なんだか
変にドキドキする
変化していて欲しい気持ちと
変化していたらどうしようという気持ち
どちらもあって
僕は
この引き出しが
いつか僕をどこかへと
運んでくれるようになることを
願っている
コーチのバッグよりも
エルメスの財布よりも
4℃のブレスレットよりも
ディオールの口紅よりも
無印のコームよりも
ジェラピケのパーカーよりも
AppleのApple Watchよりも
シャネルのサングラスよりも
今は
何かに囚われない広い視野が欲しい