父はある神社へと向かった
夏の暑い時期
汗をかきながら神主さんに
あるお願いをする
ある夏の暑い日の午前中
母はとある病院で私を産んだ
私は産声を上げた
父は母に神主さんからいただいた
紙を見せると
これにしたいと思う
と言った
あれから何十年
その神社はまだあり
その紙も家に保管されている
神主さんにお願いして
もらって来た
私の名前リストである
その中から
一番良いと両親が決めた名前が
今の私の名前です
今の私の視線の先には
憧れている人がいる
ひと目見た時から
まるで絵画から出て来た人のようだなと…
吸い込まれるような大きな瞳に
長いまつ毛
スッとした鼻筋
薄く少し困っているような唇
見惚れた
あの人は
どんな人が好きなんだろう
私には
時々ぶっきらぼうに挨拶をしてくれる
私は照れながら
今日も挨拶が出来て嬉しかった
あの人が惚れる人は
どんな人なんだろう
私は
ふわふわと
そんなことを考えながら
チラチラとあの人を見る
ダメだ
他のことが考えられなくなる
あの人は食べ物では何が好きなのだろう
どんな本を読むのだろう
何が趣味なのだろう
私は
沼に嵌って身動きを取れない木偶の坊と化して
ただただ 見つめる
秘密がある
自分にはもう1人の人格がある
そのもう1人は
自分が本当に意識の無いピンチな時に
出て来るらしい
しかも
人の話によると
猫だと名乗っているそうだ
オスの猫らしい
一度は
この人格のおかげで
命を助けてもらったようである
びっくりする
語尾は
〜ですにゃ
なのだそうだ
信じ難いが本当なのである
これは
自分だけの秘密事項である
ー日記
2024-7-某日
ー日記
2007年07月x日
雨の日だった
今日は学校からの帰りが遅くなり
食堂で彼氏が待っていてくれた
彼の向かいに座って
カロリーメイトを齧りながら
彼の近況報告を聞く
雨足が強くなって来て
早く帰りたい気持ちが湧いたけれど
彼の話も聞いていたい
そろそろ帰る?と
彼は私に訊ねて
うん
頷くと
はい これ
手にはバイクのヘルメット
家まで送るわ と彼
…ありがとう
お礼を言うと
バイクの後ろに初めて乗せてもらった
ひゃぁ!!
凄く風と雨に当たって
家に着く
た…ただいま…ちょっと…寒い…
てなわけで
さっきお風呂に入った
今日もお疲れ様
彼氏さん、ありがとう!
ーーーー
遠い日の日記を
今読み返す
あの頃も色々あって
楽しかったのかな
いや
毎日毎日頑張ってたな
今の私はどうかなぁ
彼氏とも別れて
今は独り身
独身貴族なんて古い言葉が浮かぶ
まあ
確かに自由は自由だし
でもって
平和が一番よなぁ
今日も
お疲れ様でした
僕は…過ちを犯した
あの日は
ミンミンゼミの大合唱がうるさく聞こえる日だった
お母さんがスーパーに連れて行ってくれた
僕はソーダ味のアイスをカゴにしれっと入れた
お母さんはすぐに気付くと
またアイスばっか食べたらお腹壊すよ
と言った
外で待ってるー
と
僕はガチャガチャを品定めするために炎天下の中
外で汗を垂らしながらガチャガチャを見て回る
お母さんがスーパーから出て来た
おかーさーん
これー
ガチャガチャをせがむと
200円をくれた
キラキラしたスーパーボールが出て来た
わあーー!!!
僕はテンションが上がり早速遊び出す
こら 道に出たら危ないから!
お母さんが言う
僕は気にせずスーパーボールで遊ぶ
と
ドタッと音がして
僕は音のした方へ振り返ると
お母さんが倒れていた
おかーさん!!!
僕は大泣きしながらお母さんに駆け寄り
立ち上がるお母さんの無事を確認してると
お母さんは膝を盛大に擦りむいてしまっていた
わあああ!おかーさん!!わあああ…
お母さんは血の出る膝を見て
ちょっと転けただけだから大丈夫!泣くな!
と僕に言う
僕のせいでお母さん!!
わああああ!
僕は大泣きするものだから
周りの人が駆け寄って来た
大丈夫ですか?あらあら お母さんが…
見知らぬ人がお母さんにハンカチで傷口を塞ぐと
ぎゅっとしばってくれた
もう大丈夫よね 絆創膏持ってなくて ごめんなさいね
見知らぬ人はそう言うと
すみません ありがとうございます
とお母さんが挨拶した
僕はスーパーボールを握りしめたまま
お母さんの服の裾をぎゅっと掴んで
どこか行っちゃやだ
と喚くように言った
お母さんは
大袈裟!
と言うと普通に歩き出した
その日以来
スーパーボールでは遊ばなくなった
そんな夏もあったなぁ と
僕は分厚い雲が浮かぶ空を見上げた