ボーン、ボーン、ボーン、と柱時計から音がした。
時計を確認した。午後3時。分かっていても、音がするとつい顔を上げてしまう。
ついでにコーヒーを一口飲んだ。ちょうどいい温度になっている。もう一口。ここのコーヒーはなんでこんなに美味しいんだろう。すでに2杯目だけれど、やはり飽きない。この喫茶店では毎回同じブレンドコーヒーを、ミルクも砂糖も入れないまま2、3杯飲む。ブラックコーヒーの良さは味変可能なところにもあると思っているのだけれど、なぜかここのコーヒーは味を変えようと思うことがない。
少し味わって、また視線を下に戻し、本の続きを読む。
ボーン、ボーン、ボーン、ボーン、と柱時計から音がした。
午後4時。
本を閉じて、少し落ちつく。あと数口分残っているコーヒーと向き合い、この時間が終わるのを惜しむようにゆっくり飲んだ。
ごちそうさまでした。店主に声をかけ店を出る。途端に現実世界に戻ってきたような感覚になる。さて、今日の夜は何を作ろうかな。
#時を告げる
小さい頃は、海へ行くたびに貝殻を集めていた。
きれいな色の、なるべく欠けてないのを持って帰った。
何になるわけでもなかったけど、好きだった。
桜色と白のグラデーションになっているものは特に好きで、似たようなのを何度でも拾った。
貝殻の根元に穴が空いている貝殻がよくあって、はじめは欠陥品のように思っていた。
けれど、紐を通せばネックレスが簡単に作れるということを知ってからは、これはこれで価値があると思ったから喜んで拾うようになった。
あの貝殻たちは結局どうしたんだっけ。どこかのタイミングですり潰してみたんだっけ。家の前の砂利に捨ててしまったんだっけ。そのまま眺めていたものも、ネックレスにしたものも。
今海へ行ったって、きっと貝殻を拾うことはない。なんだかちょっとさみしいな。
彼女のひらめきにより、今日は2人でランニングをすることになった。日頃から「痩せたい」とよく言う彼女ではあるが、今回はようやく運動を習慣化する気になった…というわけではない。
早々とバテて途中からウォーキングになりつつも決めた道のり通りに進んで、2時間かけてゴールまでたどり着いた。
何度か座り込みそうになるほどしんどそうだった彼女が途端に走り出し、店の敷地内へ入って叫んだ。
「ローソン着いた!やっとだよー!やっと食べれるよ!」
彼女のひらめきというのは、大好きなコンビニスイーツを運動後に食べることによって最高に美味しく食べられる、というものであった。
彼女はいきいきとした表情でこちらの到着を待っている。
よくそんな急に元気になれるなと不思議で仕方がなかったが、彼女の瞳のきらめきを見ているとなんだか自分の疲れも飛んでいくような感覚がした。
コンビニスイーツを無事ゲットして家に帰り、2人で最高に美味しい時間を過ごした。
飛んでいったはずの疲れが翌日筋肉痛となって現れ、痛みにしばらく苦しみ続けることになるのだが、それはまた別の話。
#きらめき
些細なこと、と思っても、見逃したり無理に我慢したりしない方がいい。
むしろ、些細なことなら言いやすいんだから。こんなこと、と思ってるうちに伝え合えばいい。
伝え合ってみたときに、あれあれ、なんか根本から違いそうだぞ、って思うかもしれない。
そうしたら、擦り合わせてみればいい。
擦り合わせて、それでも合わないならきっと無理だってことだし、合えば素敵だし。
伝え方やタイミングは大事だろうけど。
#些細なことでも
不完全な僕だから、ダメだと思っていた。
誰も僕のことなんか好きにならないし、意味がないから僕だって誰も好きにならない。
それでいいと思ってた。
でも、君と出会って気づいた。
君は、僕がいいと言った。
僕じゃないとダメだと言った。
僕は、不完全でも良かったのだ。
僕に必要だったのは、完全になることではなく、不完全な自分を認めてあげることだったのだ。
考えてみれば、人は皆不完全だ。
僕も、君も、みんな。
不完全でいいし、不完全がいい。
#不完全な僕