誰にも言えない秘密って、あなたにはありますか?
昨日こっそり寝る前にアイスを食べたこと?
彼女の友達と浮気していること?
昔、人をいじめていたこと?
人を殺して埋めたこと?
私の秘密、あなたにだけ教えてあげましょう。
私、実は死んでるってこと!
狭い部屋の窓辺で、ロッキングチェアに座る君は退屈そうだ。
いつも同じ本を繰り返し読んでいるが、なんの本なのか。いくら新しい本を買ってきても、次の日の朝にはその本を読んでいる。ブックカバーの着いたその本に何が書かれているかは、いまだに知らない。
「なぁ××。」
声をかけると少しムッとして、君はパタリと本を閉じた。
「なんですか」
「…少し、ドライブしないか?」
ドライブという言葉に明らかに機嫌をよくする君。
準備してきなよと声をかければ、本を椅子に置き、嬉しそうに洗面所に向かって行った。
ふと不意に、椅子に置かれた本を手に取る。少しだけ日に焼けたそれには、緑のブックカバーがかかっていた。
中を見ようとしたそのとき、洗面所から呼ばれる。また中を見れなかった、と残念に思う。
ドライブの途中で、本の内容について聞いてみよう。
そう決めて、本を置き、部屋を出た。
人が居なくなった部屋に風が吹き込む。風でぱらぱらとめくれたその本のページは真っ白。
何も書かれてなどいなかった。
これは失恋というべきか。
本当は俺が守ってあげたかった。
悪い道に進まないよう、俺が導いてあげたかった。
ゆくあてもない君を大事にしまいこんでおきたかった。
でも君にはそんなものは必要なかったんだね。
1人で立って、自分の手をのばして人を救う。
なんて傲慢だったのだろうか。
君は救いを求めるのではなく、与える人間だったのに!
君にとって俺は、救うべき人間の1人かもしれないけど。
それでも覚えていて欲しい。
俺も君の帰る場所を用意して待っていることを。
ばか正直に伝えたって、貴方はのらりくらりとかわしちゃうから。それならば、絡めとって身動き出来なくしちゃえばいいんでしょ!
そしたら捻くれ者の貴方も、少しは素直になってくれますか?
たぶん、あれが初恋だったと思う。
小さい頃に見た、ピンクと緑の髪の女の子。
お父さんに抱っこをされて、桜の木の下で写真を撮られるあの子は、にこにこ笑っていた。
鮮明に覚えているのは、その時僕が、彼女を春の妖精さんだと思ったこと。
桜と同じ色のその髪は、周囲と彼女の境界を曖昧にするようだった。
後で両親に聞いても、そんな子は見ていないと言われたから、本当の妖精だったのかなと、桜の季節になる度に思い出す。