母は、やりたいことは応援してくれるし有意義なアドバイスもくれる。私以上に怒ってくれたし、悲しんでくれた。私を本当に愛してくれていた。
でも、本当に慰めて欲しい時、本当に欲しい言葉はくれなかった。
それに気づいた時から、「親」という完璧な存在を夢見た心は、見えないところでうずくまって泣いている。
どこにも書けないこと
こんなところに書き込めるわけないでしょ
今まで閉じ込めてきたんだから
自分の背中の飛べない翼を、何度恨んだことか分からない。大空を抱き翔ける君のとなりを、何度欲したことか分からない。
太陽に手をかざしたところで、君の影は瞼に焼き付いて離れないのに。それでも空に君を探して、何度でも上を見る。
ただ一つ願うならば、君の帰る場所が俺の元でありますようにと。
「一緒に踊りましょう?」
彼女が突拍子もないとこを言うのはいつもの事だが、今回のはいつにも増して意味が分からなかった。
「構わないけれど、どうして急に?僕達はショーキャストでもダンサーでもないのだけれど。」
「急でもなんでもないわ。目の前にステージがあるのだから、踊らない訳にもいかないでしょう?」
なるほど彼女には夜の公園さえもステージに見えるらしい。街灯はスポットライト、そのほかの場所は客席というわけか。まぁ、案外それらしいのかもしれない。
「僕は社交ダンスどころか、オクラホマミキサーも踊れないよ。不格好だって笑わないでくれよ。」
「笑うなんてしないわ。もし笑ったとしても、それはあなたが愛おしいからよ。」
彼女に手を引かれステージに上がる。観客なんて誰もいやしない、自己満足の演目だけど、僕には世界中どの演目よりも価値のあるように思えた。
このステージの主役は彼女。僕は終わったあとに誰も覚えていないような脇役でいい。ただ、彼女と同じ舞台に立てただけで幸せだ。
必死に踊りながら、彼女を見つめる。彼女も踊りの経験は無いはずだが、彼女のそれはひどくそれらしいように思えた。踊る彼女の視線の先は僕。慈愛に満ちた目で見つめられていた。
彼女の人生の名のない脇役でいい。それは本心だ。でも主役はそれを許してくれないのかもしれない。
脇役に名前が与えられるとき、脚本はどのように変わるのだろう。ぽっと出の登場人物に、僕達以外は大騒ぎだろう。でも、主役はそんなことを気にしない。素で演じられる役で、最期まで舞台の上で躍るだけ。
「××さん」
僕に意味付けをしてくれるあなたの声は、僕には神の声のように聞こえる。僕はこの神の一瞥を噛み締めて生きていく。
「楽しいわね、××さん」
「うん。とても。」
観客のいない、僕達だけの舞台がいつまでも続けばいいと願う。
空が金色に染まる黄昏時。友人は、楽しい時間が終わるようで嫌いだと言うが、僕は好きだった。
友人と並んで歩く帰り道、ふと横を見た時の友人の顔にうっすらと橙がのるのに、万葉集の詩のように言いようのない風情を感じるのだ。
この感情を、ありきたりな言葉に当てはめたいとは思わない。誰かと共有したいとも思わないし、ましてや共感なんて必要ない。
ただそれでも、友人に、君にこの感情を抱くことを許して欲しいと願わずにはいられない。
将来、2人がどうなるかは誰も知らないけれど、僕の想いを君は知らないけれど、黄昏を共に歩いたことだけは覚えていて欲しいな。