その日は暑かった
それもそうだ、この炎天下
水も財布も何一つだって持たず飛び出してきたのだから
理由は、取り立てては特にない
強いて言うならなんだかそうしたかったからだ
疲れたんだろ、色々と
街を当て所もなく歩く
知人の家の前を過って、公園の蛇口で水飲んで、畑に植わる作物を眺めて、行ったことない場所ほっつき回って
いつも傍にある筈の全ての、知らない見方を知った
涙も底に背負った侘しさも、乾いていた
一つ、二つ、そして三つと橋を渡ったその時
沈み往く夕日を見た
視界が開けた気がした
川に反射していた、零れ落ちた今日の終わりが
白昼に始めた逃避行が
眩しく終わるのが辛かった
そんなあの日の景色の話
これでよかったの?
空を泳いでく誰かが訊いた
君は本当に、終わりを望んでいたの?
その問いに、少しばかり言葉が詰まったのは何故だったんだろうか
確かにそうだ、辞めてしまいたいと思う、
大体全部
かといって本当に辞めたいだけなんだろうか
何故、辞めたいんだろうか
あぁ、そうか
綺麗に生きることは叶わないと、自分に見切りをつけたからだ
多分どうしたって、自分は何にもそぐわない
有難いことに居ても許される場所はあるんだ
しかし、
居るべき場所が、何処にも無い
きっとそれは、天国だろうと地獄だろうと独りになろうと同じだ
何処にいようと何をしようと、自分が自分である限り、世界が世界である限り
それはずっと変わらない
だからこそ、全て無かったことにしたかったんだ
この世から全部消えちゃえば、砂塵すらも残さず崩せば
そしたら笑ってもいいって思えたんだ
でもそれはあまりにも大きくて叶わないから
自分だけ終わらせればいいって、そう解ったんだな
ならやっぱり、
その願い事でよかったよ
笹を揺らした微風が止まる
私は宙に恋をしている
それはとても、虚しい恋だ
果てを捜して、それを取り巻く空間を捜して、その果てを捜して、またそれを取り巻く空間を捜して、
延々と終わりの見えない循環と、それに対する追求は
もはや空虚や絶望と言ってもなんら差し支えはなかろう
それでも、私は宙に恋をしてしまった
だだっ広い空間に、絶えぬ虚無感に、私達の頭上に広がる情感に富んだ空とその先に!
その全てにロマンを見出させる程に、世界は美しくあるのだから!
ならば私は浅ましくも愚かにそれらを追い求めようではないか
例えこの行為が空っぽだとしても、
だとしても
この空が、美しく思えたものだから
波音に耳をすませて
攫われていくのをただ待つ
血液の流れる音にもよく似た雑音は、懐かしくも心地よく、そして不愉快だ
生きた心地を思い出す
自分の輪郭に縛られる
例えば、そうだ
水面の声を一身に受けとめどなく打たれる、
湖の孤独な岩のように
押し寄せる世界によって、自分の姿形を実感できる
それと同時に、今にも崩れそうな膝と世の不条理を今一度認識できる
そうして、生をしかと真に受けて、そうしてやっと、明確な死を遂げられるのだ
全てを現状を受容して初めて、完璧で完全に死ぬことが出来るのだ
今夜は朔日だ
常日煩わしい小艇も水平線も、今はなりを潜めている
なんの光も反射しない波が漆黒を糧にこちらを呑み込もうとやってくる
これこそ望んでいた、完璧で完全でつまらない世界だ
あぁ、本当に素晴らしく、画一的だ
飽きた
こんな風に悟ったふりして語った所で、結局待つだけでは終われる筈もない
しかし行動する気力も体力も残っちゃいない
だからまた、
波音に身を委ねる
寒いなぁ
青い風が舞っている
心に身体に中に目の前に、
そして都市に風呂場に呼吸器に
青い風が舞っている
雷雨の匂いがする
大気に可視光が乗る前に聞いた予報では、確か今日は晴れだった
目が疼いている
小窓から澄んだ快晴が差し込んだように思える
部屋や自身の影が暖かい黄色を織りなした
そこに、
カナリアを見た
幻想か
今更、過日を嘆げこうとも、もう遅いのに
端から、救われようも無かったのだ
痛みは消えた
呼吸なんぞは疾うの昔に手離している
あれからどれほどが経ったのか知る由も無い
このまま浄化してはくれないだろうか
青い天使に呑まれるように、死
ねた
ら