《日陰》ホラーです。
僕がお母さんと行く公園に、トイレがあるんだけどトイレの日陰になったところに、いつも女の子がいるんだ。
僕より少し年上の小学生低学年くらいの女の子。
一緒に遊ぼうって声をかけた事もあるけど、何にも言わないし、こちらを見ようともしない。
お母さんにもそのことを言ったんだけど、「誰もいないじゃない、お母さんのこと驚かせようとしているの?」なんて言って信じてくれないんだ。
その女の子いつも1人でいるし、寂しそうに見えたから公園に行くたび気になって仕方なかった。
雨が降っても雪が降ってもずっと日陰に座ってる。
冬休みになって、お婆ちゃんのところへ行った時にお婆ちゃんにもその話をしてみたんだ。
『ひろ君はお婆ちゃんに似ちゃったんだね、、分かったよ、これ持ってきな』
お婆ちゃんはそう言って、綺麗な数珠を渡してくれた。
家に帰って、早速数珠を持って公園の日陰に行った。
綺麗だからあの女の子にプレゼントしようと思ったんだ。
なのに、数珠をプレゼントしようとして女の子に近づけた瞬間パーンって大きな音がして数珠が弾けてしまった・・・。
ビックリしたけど、女の子に会って数珠をあげたら言うようにと、お婆ちゃんに教わった言葉を言ってみた。
『成仏してね』って。
そしたら女の子が初めてこっちを見て笑ったんだ。
僕はもう大人になったけど、あれから女の子の姿は一度も見てない。
ただお婆ちゃんと同じで、霊というものをたまに見るので、いつもお守りがわりの数珠を身につけている。
《帽子かぶって》
「ちょっと散歩行ってくるな」
俺は奥のキッチンにいる妻に声をかける。
『あ、お父さん外行くなら帽子かぶって』
「帽子はいいや」
『なんで?日差し強そうだからかぶった方がいいって』
「いやいやいや、帽子っていうかそれカツラだよね!?」
俺はカツラを指差しながら声を荒げる。
『カツラも帽子も変わらないわよ、我儘なお父さんね』
妻は一旦奥に戻り、他の帽子を持ってこちらに来る。
『はい』
妻がフルフェイスのヘルメットを手渡す。
「いやいやいや、徒歩だから、散歩だから!フルフェイスのヘルメットなんてどこにあったの!?そんなんで歩いてたら怪しいって!」
『もう、、、なんでもいいじゃん』
俺が悪いみたいになってる・・・。
『待ってて、他の持ってくる』
『はい』
「え?なにこれ、、、防災頭巾、、?」
俺は防災頭巾を被りながら言う。
「いやいやいや、普段使いに防災頭巾かぶってる人見たことないんだけど・・・」
このパターンはあかん、、永遠に続くやつだ・・・。
俺で遊んでるな・・・。
俺は防災頭巾を受け取り、ポケットに入れ、何もかぶらずに散歩に行った。
《小さな勇気》
また会った。
私は電車通学をしてるんだけど、いつも会う男の人がいる。
どうしよう、、、心臓バクバクするけど今日こそは、、言いたい。
がんばれ!私っ。
勇気を振り絞れ!
恥ずかしいと思って言えなかったけど、今日こそは!
占いでも今日行動を起こすのが吉と出てた、きっと大丈夫。
小さな勇気を振り絞って、私のお尻を触っている男性の手を掴んで言った。
「この人痴漢です!!!」
《わぁ!》 ※腐向けです。
【シュンside】
「わぁ!、雨降ってるじゃんか!」
学校の昇降口を出て、思わず声を出す。
天気予報は雨が降るなんて一言も言ってなかったのに。
雨はシトシトどころかザーザーと強めに地面を叩いている。
仕方ねぇ、小ぶりになるまで待つか。
諦めて昇降口の角の方で佇んでいた俺の横を1人の男が傘をひろげながら通りすぎた。
タクミ?
そいつは寮で俺と同室のタクミだった。
相変わらずのイケメン面だ。
俺はタクミを追いかけ声をかける。
「おいっ、無視してくなよ、傘入れろっ!」
『ああっ、シュンか、全く気づかなかった』
「嘘つけ!」
言いながらタクミの傘に強引に入る。
2人とも身長177cmか8cmくらいあるので、デカい。当然ながら狭い。
『はぁ・・・』
タクミからため息が聞こえたがスルーしておく。
「ありがとな!助かったぜ」
俺はニッと笑いながらタクミに言う。
『はぁ、、仕方ないな』
俺をジト目で睨むタクミ。
2人で相合傘をしながら寮まで歩くことになった。
俺は心の中でガッツポーズを取った!
俺はタクミのことが好きだ、友達としての好きではなく恋愛の意味で・・・。
喧嘩することも多く、雑に扱われたりする事もあるけど、心が許せる奴というか、お互い無言でも気にならないしむしろ心地よいというか。
とにかく気づいた時には好きになっていた。
好きな相手と相合傘!最高のシチュエーションに心が躍る!
【タクミside】
俺は心の中でガッツポーズを取っていた!
昇降口でシュンを見かけた時にこうなるだろう事は予想できた。
人懐っこいシュンの事だ、俺の傘に絶対入ってくるだろうと。
だから俺はわざと声をかけなかった。
自分から声をかけるのが照れくさかったというのもある。
最近気づいたのだが、どうやら俺はシュンの事が好きらしい。
ついシュンの事を考えてしまうし、いないと何をしているか気になってしまう。
同じ男同士だ、何度も気のせいだと思い込もうとしたが、シュンを意識してしまう自分の気持ちを誤魔化すのは無理だった。
そんなシュンと相合傘!
嬉しすぎるだろう。
つい緩んでしまいそうになる顔の筋肉を引き締める。
無口な俺と違ってシュンはよく話す。
シュンが話してるのを聞きながら寮への帰り道を歩く。
雨は変わらずザーザー降りだが、今日だけは雨に感謝だ。
寮へ着き、傘を閉じた俺にシュンが慌てたように言う。
「えっ?お前右肩びしょ濡れじゃねーか!」
肩が濡れているのは、シュンが濡れないようシュン側に傘を傾けていたからだ。
『部屋に戻ったらすぐ着替えるから大丈夫だ』
俺はそう言ったが、シュンはポケットからハンカチを出し、俺の濡れた右肩を拭っている。
「風邪引いたらどうすんだよ・・・」
『お前が風邪を引くよりはいい』
俺はシュンを見つめながら小声でつぶやく。
「え・・・っ」
俺のつぶやきが聞こえたのか、みるみるうちに顔が赤くなるシュン。
「俺はタクミが風邪を引く方が嫌だ・・・」
赤い顔のまま言うシュンとどことなく甘い空気に乗せられて、シュンの唇に唇をよせ、ほんの一瞬キスをした。
リップ音は雨のザーザーという音にかき消された。
シュンの顔が驚きに変わるが、シュンもこの甘い空気にやられたようで、お返しとばかりにタクミにキスを返してきた。
軽くふれるだけの拙いキス。
『シュン・・・、好きだ』
「俺もっ、俺もタクミが好きだっ」
両片思いが、両思いになった瞬間だった。
《終わらない物語》ホラーです。
なんでこんなことになった。
海へとダイブする車の助手席でパニックになる俺。
ドアが水圧で開かない!
けど窓はまだ水面より上だ、窓が開いた!
窓から無理やり体を出し、なんとか脱出できたが、運転席の女はそのまま海に沈んでいった。
先週の話だ、みゆきが話があるというので仕事が終わった後に彼女のアパートに寄った、そこで俺の子供が出来たと言われたのだ。
「ほらエコー写真見て、まー君との子供嬉しいっ」
みゆきは浮かれたように笑っている。
俺も絶対に喜んでくれると疑ってもない様子だ。
思わず現実逃避したくなったが、俺の考えをみゆきにちゃんと言わなくてはいけない。
このままズルズルとみゆきの言いなりになるのはまずい。
『・・・本当に俺の子か?俺はまだ結婚したくない』
「え?」
『堕してくれ』
「え?どうして?嫌だよ、堕ろすのなんで絶対嫌っ」
みゆきがポロポロ涙をこぼしながら泣く。
『とにかく俺は認知しないから』と言い捨て、泣いてるみゆきを放置し逃げた。
面倒事は嫌いだ、楽しいことだけしていたい。
今までだって面倒事からは常に逃げてきた。
今回も逃げられるはずだ。
『絶対に終わらせない、終わらないから・・・』
部屋に残されたみゆきは泣きながら呟く。
翌日、みゆきからLINEが来た。
「昨日は感情的になってごめんなさい、よく考えた結果堕すことに決めました、最後にお腹の中の赤ちゃんと3人で思い出のデートがしたいです」
俺は心底ホッとした。
堕してくれるならデートくらいお安いもんだ。
3人でデートとやらでみゆきの気が済むなら、ということで来週の休みにデートすることにした。
そして迎えたデート当日。
俺のアパートまでみゆきが車で迎えに来た。
『俺が車出さなくて良かったのか?』
「うん、今日は私の行きたいところに付き合ってもらうし、私が車出すよ」
もしかして子供のことを何か言い出すのではと、警戒していたが、普段と変わらない様子のみゆきに俺の緊張もほどけていった。
その後はみゆきの言うがままに、買い物に付き合ったり、行ってみたかったという洋食店で食事をしたりした。
夜がふけてきた頃みゆきが海沿いをドライブしたいというので、助手席でのんびりドライブを楽しむことにした。
「海に着いたら起こすから寝てていいよ」と言われたので、俺は助手席で遠慮なく寝た。
そして、話は冒頭に戻る。
みゆきが車で海に突っ込んだのだ。
衝撃で目が覚めた俺は、なんとか脱出し海を泳いで岸の方へ向かったが、海藻か何かが足に絡まる。
俺は手を足の方に伸ばし、海藻を引きちぎったが今度は手に絡みついてきた。
俺は慌てて何が絡みついているのか確認した。
それは髪の毛だった。
無数の髪の毛が手に足にと絡みついてくる。
『ひいぃーっ』
俺は髪の毛を振り解くようにして、手足をばたつかせながら必死に泳いだ。
だが、髪の毛が絡みつく方が早く俺の顔にまで絡みついてきた。
目が!目が見えないっ!
そして口の中にまで髪の毛が大量に押し入ってきた。
『ぐぇ、、っ』
そして俺はそのまま引きずられるように溺れていった、、。
薄れていく意識の中でみゆきの声が聞こえた。
「・・・これから3人でずっと一緒だよ、終わらない物語の始まりだね」