《岐路》
あなたは人生を左右する大きな選択肢に直面したことはあるだろうか?
受験に就職に結婚とかもそうかも。
私は今、まさに直面していた。
私のたった1人の息子が人質に取られてしまった。うちは世間一般から見ると裕福な方だったらしい。身代金要求も払える額ではある。
だからこそ迷っている。大人しく身代金を渡すか、警察に連絡する。
…警察に連絡したとてといった所ではあるかもしれないが。
あなたならどうする?
《世界の終わりに君と》
……私、もうすぐお迎えが来るみたいだ
意識が落ちて体から魂が抜け出ている。意味が分からないと思うが私も分からない。…分かるのはなぜか病室のベッドで寝ている私が見えることだけだ。この光景で私はもうすぐ死ぬと悟った。
てっきり死ぬ前は走馬灯とか流れるかと思ってた。どうやらそういうわけでもないっぽい…
……
この誰にも見えない世界は音もなく、孤独だった。私は誰からも認知されないし、中々「私」は死なない。
そんな時だった。
「やぁ~、ここに来るの早いよ〜」
聞き覚えのある声がした。そちらを向くと…
……彼だった。だが、彼は普通に生きている。このよく分からない空間にいるのがおかしい。
「なんでここにいるの」
「そりゃあ呼んでくれたから、としか言えないな」
「どういうこと?私、ここにあなたを呼んでないけど」
「ここはね、深層意識の世界、らしい。自分の奥深くに眠っている感情を呼び起こすんだって」
「え?じゃあ私、死ぬわけじゃない?」
「いや、着々と死に近づいてる。この現象が起こるのが死に近いことを証明してるからね」
「じゃあ私が死ぬまでちょっと話さない?」
自分で驚くほど私は冷静だった。もうすぐ死ぬというのに。
それからたくさん話した。とはいえ思い出話ばっかりだったが。
しばらくして―
「そろそろ、時間みたいだね」
「あ、そう…」
「何かやり残したことでもある?」
やり残したこと。何となく思いついたのはこれだった。
私は彼に抱きついた。抱きしめた感触も彼そっくりだ。そりゃあ私の深層意識の彼だからそうだと思うが。
そして言った。
「私、あなたと出会って、付き合えて良かった。『世界』の終わりに君と会えて…良かった」
「やり残したことはそれだけかい…?」
「もうこれしか思いつかないや」
「ふふっ…なんか君っぽいね」
そして、彼は笑顔を私に向け、
「ありがとう、楽しかったよ。次はもっと同じ時間を過ごせるといいね」
その言葉で私の『世界』は終わった。
《最悪》
最悪。もうあなたのこと…嫌い。なんであなたはこんなにもどうしようもない人間なの?私を1番に愛してるんじゃなかったの?なのに…浮気とか…私の心を弄んでるの?自分で言うのもなんだけど、私、結構ちゃんとやってたよ?あなたの彼女。どこが不満だったの?言ってくれれば直したのに。ああ、本当に最悪。あんたにとっては私は大人数の中の1人だったかもしれないけど私にとってはそんな器じゃなかったのに。…いや、私は浮気に対して怒ってるわけじゃない…か。浮気の女のためにあんたが私に貢がせたことに怒ってるんだ。おかげで私はお金がどんどんなくなり、今大変な状態になっている。もう…許せない。
「さようなら、私の愛した―最悪の彼。」
《誰にも言えない秘密》
「誰にも言えない秘密って誰にでもあるよね…」
「そうだね、俺も持ってる」
「私も持ってるけど今日あなたに言っちゃおうかな…」
私と彼は同棲してだいぶ長い。だから…秘密ぐらい言っちゃってもいいかなとふと思ったのだ。
「ということは俺、結構信頼されてる?」
「まぁ…ね」
「んで秘密って?」
私はポケットにあるモノを入れて彼のそばに近寄る。
そして、秘密を語る。
「私ね、誰とも付き合ったことないって言ったよね?」
『それ、嘘なの。』
「え?でもなんで隠す必要が…?」
「隠す必要は…分からない。でも私、別れたらその記憶を抹消しようとするから。それで…あなたに秘密を話したのはね…」
「うん…?」
「あなたと別れたいからなの」
「え…?急に?俺たちまあまあ上手くやれてたんじゃないの…?」
「まぁ…そうなんだけど…」
私は彼との距離を一気に詰め、ポケットのソレを彼の胸元に突き立てた。
「ごふっ…は…?どういうことだよ…?」
彼の胸から血が四散する。座っていたソファーが気色の悪い赤色に染まる。
「これで私は『誰とも付き合ったことはない』状態…」
彼の顔は真っ青で息絶える直前だ。誰にも言えない秘密。実際は「これ」だ。
『愛を注ぎ続けて自分の手でそれを一気に破壊する。』
私はこんな異常行動に興奮と生きがいを感じていた。
なんて歪んだ愛なのだろう。
「ふふっ…ありがとね、もう何人か忘れたけど」
「私のおもちゃ♡」
《狭い部屋》
「やっほ〜!みんな待ってた?配信はじめま〜す」
そうして私は今日も配信を始める。私は最近Vtuberというのを始めてみた。正直言って最初はかなり緊張したし、思い通りのパフォーマンスができてなかった。
…それもしばらくしたら慣れてきて様々なことができるようになった。
Vtuberは私にとって…光だったかもしれない。なぜかといえば―私は引き籠もりだからだ。外出も必要最低限に抑え、カーテンがほぼ常時閉まった部屋でゲームし続ける。自分で言うのもなんだがろくでなしだった。
そんなろくでなしでもVtuberならできた。自分の世界をそこ―ネット上に作り出せた。
だから…この狭い部屋は私にとって大事な―世界そのものと言っていいほどのものだった。