《世界の終わりに君と》
……私、もうすぐお迎えが来るみたいだ
意識が落ちて体から魂が抜け出ている。意味が分からないと思うが私も分からない。…分かるのはなぜか病室のベッドで寝ている私が見えることだけだ。この光景で私はもうすぐ死ぬと悟った。
てっきり死ぬ前は走馬灯とか流れるかと思ってた。どうやらそういうわけでもないっぽい…
……
この誰にも見えない世界は音もなく、孤独だった。私は誰からも認知されないし、中々「私」は死なない。
そんな時だった。
「やぁ~、ここに来るの早いよ〜」
聞き覚えのある声がした。そちらを向くと…
……彼だった。だが、彼は普通に生きている。このよく分からない空間にいるのがおかしい。
「なんでここにいるの」
「そりゃあ呼んでくれたから、としか言えないな」
「どういうこと?私、ここにあなたを呼んでないけど」
「ここはね、深層意識の世界、らしい。自分の奥深くに眠っている感情を呼び起こすんだって」
「え?じゃあ私、死ぬわけじゃない?」
「いや、着々と死に近づいてる。この現象が起こるのが死に近いことを証明してるからね」
「じゃあ私が死ぬまでちょっと話さない?」
自分で驚くほど私は冷静だった。もうすぐ死ぬというのに。
それからたくさん話した。とはいえ思い出話ばっかりだったが。
しばらくして―
「そろそろ、時間みたいだね」
「あ、そう…」
「何かやり残したことでもある?」
やり残したこと。何となく思いついたのはこれだった。
私は彼に抱きついた。抱きしめた感触も彼そっくりだ。そりゃあ私の深層意識の彼だからそうだと思うが。
そして言った。
「私、あなたと出会って、付き合えて良かった。『世界』の終わりに君と会えて…良かった」
「やり残したことはそれだけかい…?」
「もうこれしか思いつかないや」
「ふふっ…なんか君っぽいね」
そして、彼は笑顔を私に向け、
「ありがとう、楽しかったよ。次はもっと同じ時間を過ごせるといいね」
その言葉で私の『世界』は終わった。
6/7/2024, 2:58:11 PM