氷室凛

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12/15/2024, 4:24:00 PM

「精霊には王がいる、って話、知ってる?」
「ア? ンだよ突然。……聞いたことねェな、そンな話」

 ロキの言葉にイルは顔を上げた。陽が高く暖かい、珍しくのんびりとした小春日和のことだった。

「そっか。まあ、ただの噂みたいなものだからね。伝説って言い換えてもいい。魔人《こっち》、いや、魔王《僕ら》に伝わる、ただの噂」
「俺は精霊の存在自体、知覚できねェからなンとも言えねェが……。その言い方じゃあ、オメェは信じてねェのか」
「……うん、そうだね。そうなるね」

 ロキは両手で持ったカップをクルクルと回し、一口飲んでからそう言った。その水面を見つめたまま話し続ける。

「そもそも精霊自体、個の意識が低い。生き物っていうより──風や植物、自然に近い存在だ。僕ら交信者《ファミリア》は、一応精霊と話すことができるわけだけど……。なんていうか、たぶん、他の人たちが思うよりずっとふわっとしてる」
「ふわっと」
「うん。ふわっと。精霊の意志自体が割と曖昧なわけだから、はっきり会話できてるわけじゃない。断片的な情報で、言葉ってよりかは感情を推測していく感じ。で、僕が知る限り精霊ってのはそういう感じだから……そこに王なんて言われてもね。かなり信憑性は低いと思うよ」
「ふぅん。オマエが言うならそうなんだろ。……で? なンでいまそンな話を?」
「僕の話すこと全てに意味を求めないでほしいけど……。こんな噂もある」

 カップを置いて指先を合わせ、真っ直ぐにイルの目を見る。深く、暗く、静かな湖のような瞳が微かに揺れる。


「シリウスは精霊王と契約したって」
「……アイツが。精霊の、王と」

 その言葉にイルの瞳も揺れる。
 ロキはその反応に満足そうに頷き、大きく手を広げた。

「そ。でもまあ、そもそも精霊王の存在自体が眉唾モンだからね。どこまでが事実でどこからが伝説か、わかったもんじゃあない。でも、それも──」
「次の都市でわかる、か」

 ロキは再び深く頷いた。

「そういうこと。初雪が降ったらここを発つ。のんびりしてられるのもいまだけだよ」
「アァ、言われるまでもねェ」

 イルは知らず知らずのうちに拳を握りしめた。

 伝説の真偽も。
 この旅の行末も。

 全てがわかるのは、もうすぐだ。



出演:「ライラプス王国記」より ロキ、イル
20241215.NO.116「雪を待つ」

12/11/2024, 9:54:11 AM

「仲間」とか、「敵」とか。
漫画みたいに、小説みたいに、その境がはっきり決まっていたらどんなに楽だろう。

あの部分では意見が合って。
あの部分では真っ向から対立して。

「仲間」とも「敵」とも言いがたく。
「友達」なんて言うほど仲がいいわけもなく。

仕事なんてそんなもの、ってわかってはいるけれど。

時たま、ひどくつかれる。




20241211.NO.115「仲間」

12/10/2024, 9:42:57 AM

(下書きとして一時保存)


20241210.NO.114「手を繋いで」

12/9/2024, 10:05:28 AM

「菅原さんヘルプ! 殺しの依頼です!!」
「…………どした? 自分でやれば?」
「うっわ、最低最悪ありえない! それがか弱いJKに言う言葉ですか!?」
「よし、異論は色々あるけど大人の俺がとりあえず話を聞いてやろう」
「出たんですよ、部屋のすみっこに! やつが! この部屋呪われてますよ!!」
「……幽霊? G? ティンダロスの猟犬?」
「全部違う! うちふたつ実在しないし! てか菅原さんTRPGやるんだ! ……じゃなくて。ほら、そこ! 今もそこから逆さまになってこっちを見つめてますよ!」
「え? あー……蜘蛛じゃん。しかもあんなちっこいの。おまえ蜘蛛ダメだったんだ」
「無理、まじ無理キモい無理。早く処分してください」
「意外だわ。益虫なのに。それに蜘蛛殺したら神様ワンチャンくれなくなるかもしれないぜ〜」
「蜘蛛無理って言ったら益虫だとか言ってくる人なに考えてんすかまじ頭沸いてるありえない。こっちはそんな話してないんすよ、機能がよくてもデザインが最悪なら最悪だって話なんすよ。脚8本で目4つとかまじ無理ありえない最悪キモい他と統一しろよデザイン1から学んでこい」
「蜘蛛に対してこんなキレる人初めて見たわ」
「てか散々殺したり放火したりした極悪人が蜘蛛1匹見逃したくらいでワンチャンもらえるなら今まで大量の人間救ってきた私はハナから天国行き間違いなしじゃないっすか? 死後の世界など恐るるに足らず。ってわけでそこの蜘蛛は心置きなく潰してやりましょう」
「……待って、あいつ消えてね?」
「うっわまじ!? 最悪、見逃した……。このまま一生目の前に現れないでくれればそれはそれでいいんですけどね。サンは森で、私はタタラ場で。共に平和に生きよう」
「…………あ」
「え?」
「……闇より深い漆黒の身体。怪しく輝く4つの瞳。獲物を探すように蠢く8本の脚。そんな異形の怪物が肩に乗っているのを確認したあなたはSAN値チェックです」




出演:仲芽依沙(なか めいさ)、菅原ハヤテ(かんばら はやて)
20241208.NO.113「逆さま」「部屋の片隅」

12/6/2024, 9:32:24 AM

(下書きとして一時保存)

20241206.NO.112「眠れないほど」

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