さの。

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7/21/2024, 10:10:09 AM

からっぽ。からっぽ。
わたしの中は、もうずーっとからっぽ。

欲しいものなんてないよ。
何かをしたいって気持ちも、何かが好きって気持ちも、もうずっと感じていないから。


平日の疲れがたまった体をベッドに投げると、じわじわと沈みこんでく。
いつも、満たされない。
きっと私の心には、穴が開いているんだと思う。

ベッドの上、おもたい瞼を閉じれば、静かな部屋の音が聞こえる。
あ。エアコンの音がする。
もう、夏だっけ。そういえば。

4/5/2024, 12:23:02 PM

パチンッと電気を消して、明日のためにカーテンを開ける。

都会では見えない星たちが、ここではキラキラと楽しそうに輝いてる。

「ふふ」

柔らかい気持ちに満たされて、笑みがこぼれた。

スマホの着信音が私をよぶ。

あ、あの人だ。

優しい気持ちで画面をタップする。

「もしもし」

何度も聞いた、ずっと大好きな、声。

「ふふ。見える?」

「なにが?」

穏やかに、そうたずねてくる。

「ほーし!」

「きれいに見えるの?」

「うん、すっごく」

「いいなぁ」

きらきら、きらきら。

輝く星を見ながら、大好きな声を聞く。

「ふぅ」

「どうしたの?」

「ううん、なんでもない」

今日も生きていてくれて、ありがとうって。

そう思っていただけだよ。

4/4/2024, 8:24:53 AM

「昨日みた夢ね、すっごく幸せだったの。

10年後の未来の夢。

お父さんがいて、お母さんがいて、お姉ちゃんがいて。

でもね、1つだけ足りなかったんだぁ」

「何が?」

「……キミだよ。キミだけ、いなかった」

ほんの少しだけ、声がふるえた。

おかしいな、もう未練なんてないはずなのに。

「そっか」

キミはなんてことないみたいに、遠くを見る。

星空の下に、ゆらゆらキラキラと光る海が見える。

「ねぇ、別れよ」

「……たかが夢でしょ?」

「そういうところだよ。

夢でキミがいない未来を見るほど、私のなかでのキミは、小さくなってしまったの」

「そう。きみの言うことはいつも、よくわからないや」

目の前の海が、ふたりで見る最後のけしき。

……本当はね、未来にキミもいたんだよ。

けれど、私が先に死ぬ未来を知ってしまったから。

私が死ねば、キミは悲しむでしょう。

3/3/2024, 6:07:12 AM

「ねぇお母さん、見て見てー!」

私はカバンの中から成績表を取り出して、お母さんに広げて見せた。

「じゃじゃーん、後期の成績、オール5だった!」

お母さんは何も言わず、ただニコニコと微笑んでいる。

小さい頃から何も変わらない。

目尻のシワも、微笑んだ時にできるえくぼも、目の下にあるホクロも。

全然時間が経っていないんじゃないかって錯覚するくらい、何も変わらない。

けれどお母さんは、何も言葉を発さなくなってしまった。

部屋のドアをドンっと誰かに叩かれる。

「うるせぇ」

ドアの外から、お父さんの声が届く。

酔っ払っているようで、声がかすれている。

「ごめんなさい」

私が謝ると、深いため息が返ってきた。

「お母さん、ごめんね。私のせいだね」

お父さんに怒られないように、小さな声で話しかける。

お母さんはどんなときも、優しく微笑みかけてくれる。

早く、明日が来ないかな。

そうすれば学校へ行けるのに。

部屋の隅っこで三角座りをしている私の隣に、ずっとお母さんがいてくれる。

お母さんのいる周りだけ、ぽわぽわと温かい。

こんなにも周囲が変わったのに、お母さんは何も変わらない。

それが私の、たった一つの希望。


私はお母さんに手を伸ばす。

お母さんを覆う写真立てを、丁寧にタオルで拭いていく。

「ごめんね、お母さん。私のせいで……」

お母さんをギュッと胸に抱きしめた。

「ここにいてくれて、写真を残してくれて、ありがとう。明日もお墓に会いに行くね」

お母さんから体を離すと、まだ優しい笑みを浮かべてくれていた。