さの。

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「ねぇお母さん、見て見てー!」

私はカバンの中から成績表を取り出して、お母さんに広げて見せた。

「じゃじゃーん、後期の成績、オール5だった!」

お母さんは何も言わず、ただニコニコと微笑んでいる。

小さい頃から何も変わらない。

目尻のシワも、微笑んだ時にできるえくぼも、目の下にあるホクロも。

全然時間が経っていないんじゃないかって錯覚するくらい、何も変わらない。

けれどお母さんは、何も言葉を発さなくなってしまった。

部屋のドアをドンっと誰かに叩かれる。

「うるせぇ」

ドアの外から、お父さんの声が届く。

酔っ払っているようで、声がかすれている。

「ごめんなさい」

私が謝ると、深いため息が返ってきた。

「お母さん、ごめんね。私のせいだね」

お父さんに怒られないように、小さな声で話しかける。

お母さんはどんなときも、優しく微笑みかけてくれる。

早く、明日が来ないかな。

そうすれば学校へ行けるのに。

部屋の隅っこで三角座りをしている私の隣に、ずっとお母さんがいてくれる。

お母さんのいる周りだけ、ぽわぽわと温かい。

こんなにも周囲が変わったのに、お母さんは何も変わらない。

それが私の、たった一つの希望。


私はお母さんに手を伸ばす。

お母さんを覆う写真立てを、丁寧にタオルで拭いていく。

「ごめんね、お母さん。私のせいで……」

お母さんをギュッと胸に抱きしめた。

「ここにいてくれて、写真を残してくれて、ありがとう。明日もお墓に会いに行くね」

お母さんから体を離すと、まだ優しい笑みを浮かべてくれていた。

3/3/2024, 6:07:12 AM